江戸時代、竹原の塩は町に大きな富をもたらしました。その中心にいたのが、「浜旦那」と呼ばれる塩田の豪商たちです。
彼らは塩で得た財産を惜しみなく建築に注ぎ込み、こだわり抜いた町屋を造り上げました。それらが、この本町通りの美しい景観を形づくっているのです。
竹原の町家は家ごとに異なる意匠が凝らされ、まるで互いに競い合うように個性を誇っています。それは、浜旦那にとって町家が「もてなしの舞台」でもあったからです。
自慢の家にお客さんを招き、盛大にもてなしながら商談を進める。そのもてなしは信頼を生み、信頼はさらなる富を呼び、町の未来を支える礎となっていきました。
たとえば、本町通りには「本瓦葺」の屋根が多くみられます。このどっしりとした瓦は、本来、寺院に用いられるほど高価なもの。重い屋根を支えるためには、太い柱や梁を用いた頑丈な造りが必要でした。こうした重厚な佇まいが商家の格式を物語っているのです。
ほかにも、幾重にも塗り込められた漆喰の壁や、長い風雨に耐えてきた竹原格子。その奥には、どんな物語が隠されているのでしょうか。
江戸時代に名を馳せた三大塩田地主──竹鶴家、吉井家、頼家を中心に、彼らの面影をたどりながら、この通りを歩いてみましょう。