あなたはこの地に降り立ったとき、どんな変化を感じたでしょう。

身をなでる透き通った空気、
緑の奥深くから漂ってくる木々の香り、
山の静けさに溶けていく、ひぐらしの声。

その小さな気づきは、胸の奥にひとつの火を灯します。

それは誰かのためではなく、あなた自身の奥にひそやかにともる、
もう一度、生きていくための静かな焰。

ようこそ、箱根フォンテーヌ・ブロー仙石亭へ。

ここは、箱根の外輪山に守られ、世俗から切り離された場所。
余計なものは届かず、ただ風が吹き、鳥が鳴き、草が揺れ、湯気がたゆたう。

旅の荷物を下ろし、一息ついたなら、まずは最初の湯に身をゆだねてみてください。

泉質は、pH2.0の強い酸性。
硫黄の香りを含んだ大涌谷の大地から湧くこの湯は、
まるで皮膚を一枚脱ぎ捨てるように、角質をやさしくほどいてくれます。

まさに、“デトックスの湯”。
不要なものを溶かし、やわらかにする湯。

一度つかれば、保温性の高さに驚かれるでしょう。
まるで灯のように、内側から身体をじんわりと照らしてくれます。

この温泉は、ただ身体を温めるものではありません。
五感の感度を、静かに解きほぐしてくれる時間でもあります。

耳を澄ませば、遠くで鳥の声。
肩を撫でる湯気。頬をくすぐる風。
空には、その日限りの雲模様。

“ただ、そこにいる”
そのことの尊さを、湯がそっと教えてくれるのです。

標高が高く、湿度が深く、
四季の移ろいがまるで、絵画のように現れるこの場所は、
開発から距離を置き、自然に守られてきた場所でした。

春にはあじさい、夏には深い緑、
秋には葉の縁に黄色が灯り、冬には雪がすべてを包み込む。

そしてこの地は、日本で最初のオーベルジュが生まれた場所でもあります。
この静けさ、この孤高、この余白が、
フランス料理という“異国の火”と美しく響き合ったのかもしれません。

温泉から上がったら、バスローブを羽織って外の空気に触れてみてください。
温まった身体を風がすっと抜けていくとき、心にも風が吹くのを感じられるはずです。

自然は、癒しを押しつけてきません。
ただそこにあり、わたしたちの輪郭をやわらかくし、気づかせてくれる。
悩みごとも、仕事のことも、この風の中では少し遠くに見えてきます。

すると、ふと
「今日の料理は何だろう?」
そんな期待が、身体の奥から静かに湧いてくる。

それは、心が静かに動き出す瞬間。

“自分自身を取り戻す”ための、最初のプロローグです。

仙石亭のディナーは、単なる“フルコース”ではありません。
日本人の感性でつくる、日本人のためのフレンチ。
懐かしさの中に新しさがあり、
技術は前に出すぎず、素材がやさしく語る。

フランス料理の伝統に、日本の「おもてなし」。
“想って、成す”という心が重なったとき、
料理はただの食ではなく、“対話”に変わります。

その対話をより深く味わうためにも、
ディナーの30分前には、もう一度、湯に浸かってみてください。
温泉に身をゆだねると、その浮力が胃腸を動かし、食欲を呼び覚ます。
汗をかけば、塩味や旨味がいっそう鮮やかに感じられるでしょう。
まさに、食事の準備運動です。

そして、鏡をのぞいてみてください。
そこに映るあなたは、少しだけ変わっているはずです。
それは、これから出会う料理たちを
まっすぐに、受け止められる準備ができたという証。

服装は普段着のままで構いません。
仙石亭では、食事の時間も、“飾ること”より、“解くこと”を大切にしています。

まるで、誰かの家に招かれたように、背筋を正さずとも、
素直に「おいしい」と言える距離感を目指しています。

食べるということは、生きるということ。
そして、生きるということは、今ここにいる“あなた自身”を、
ただ素直に、受け入れること。

このあとのひとときが、
あなたにとって、心からリラックスできるディナーとなりますように。

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