白石島──遠くから望むと、露出した花崗岩が雪をまとったように白く輝き、その名の由来となったと伝えられています。

島の中心にそびえる「大玉岩」、そして国の天然記念物に指定された「鎧岩」。これらの不思議な巨岩に、人々は神の気配を見出しました。

大岩に神が宿ると考える「磐座信仰」。白石島はその思想を体現する島です。
開龍寺のお大師堂も、白い巨石の下に寄り添うように建てられています。伝承によれば、弘法大師が唐から帰る途中、この岩の下で21日間の修行を重ね、去る際には島民のために杖を削り、仏を刻んだといいます。石の陰で祈り、石に仏を託す──この島では、石そのものが信仰の器だったのです。

石は祈るだけの存在ではありません。漁師たちは巨岩に登り、漁船を操るための「魚見台」として使いました。

朝の光のなか、岩の上に立つ男たち。海を見渡し、魚の群れのきらめきを読み取ります。そして大きな団扇を掲げ、船団へと合図を送る。右へ、左へ、沖へ──石の上から繰り広げられる指揮は、まるでオーケストラの指揮者のようでした。そのひと振りが、船を一斉に動かし、漁場のリズムをつくっていたのです。
その合図は、浜で魚を加工する釜場にも届けられました。「今日は大漁だ、どんどん焚け!」その光景を思い描いてみてください。

白く輝く巨岩は、昼は太陽に、夜は月に照らされ、まるで灯台のように島と海を導いてきました。石は、信仰の対象であると同時に、生業を支える舞台でもあったのです。

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