富丘八幡神社は、小豆島に五つある応神天皇ゆかりの八幡宮のひとつです。
山の斜面を巧みに生かして築かれた石の桟敷は、裾を結ぶと馬蹄形に広がり、全長はおよそ150メートル、高さは24メートルにも及びます。江戸後期から数を増やし、戦前には420面を超えたと伝わります。現在も360面ほどが使われ、祭りの日には観客席として壮観な景色を描き出します。
桟敷は単なる観覧席ではありません。かつてはその一面を所有すること自体が家の格を示すもので、桟敷を持つことは村の誇りでした。親戚や友人を招き、弁当を広げ、木の垣根に囲まれた空間でご馳走をともに味わいながら、太鼓や神輿を見守る。そこは人と人をつなぎ、心をひとつにする場だったのです。
祭礼は今も毎年10月15日に行われます。各地区から奉納される太鼓台が境内中央の石段をゆっくり、しかし勇壮に降りてくると、子どもたちが叩く太鼓の音が響きわたり、五穀豊穣と子孫繁栄を祈る姿が広がります。かつては3万人が集まったといわれ、境内はいまも歓声と熱気に包まれます。
石垣は、度重なる土砂崩れのたびに積み直されてきました。それぞれの石垣には、石積みの個性から持ち主の人柄までも想像させます。二百数十年の間、桟敷は人々の笑い声もため息も受け止めながら、祭りを支えてきました。
近年では、ライブやキャンドルナイトといった現代の催しにも活用され、桟敷は新たな光を浴びています。