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仁和寺
あなたは政治、私は祈り。国を思い並走した皇室と仁和寺
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あなたは政治、私は祈り。国を思い並走した皇室と仁和寺
「あなたの国はどこですか?」海外からの旅行者も多い昨今、誰でもそんな質問を一度はしたことがあるだろう。アメリカやイギリス、中国や名も知らない小国など帰ってくる答えは様々だけれど、国それぞれに異なる歴史や文化を積み重ねてきたことは共通する事実だろう。
国が生まれてからの経緯は様々だけれども、おそらく多くの国が生まれた瞬間、同時にその国を治める王が生まれてきたのではないだろうか。
アレクサンダーや始皇帝、ダビデなど、歴史上名だたる王が世界に存在したが、日本を統治してきたのは「天皇陛下」だった。初代・神武天皇が即位してから、皇室一族は実に125代、約2600年以上の長きにわたって政治や執務を行ってきたという。
実は、このように長きにわたってひとつの国を治めている王族は珍しい。解釈は様々だが、世界最古の王族は天皇家だという説もあるくらいだ。
さてここで話を仁和寺に移そう。ここは天皇陛下や皇室と、とても縁が深いお寺だと言うと驚かれるだろうか?
仁和寺は、譲位(生きている間に天皇の位を譲ること)した天皇が住んでいたお寺で、史上はじめての法皇が生まれた寺でもある。法皇とは「出家された天皇」を指す言葉だが、仁和寺は創建以来、皇室出身者が「法皇」になり住職として管理してきた寺、すなわち「門跡寺院(もんぜきじいん)」発祥の地なのだ。
仁和寺の建物や仏像からは皇室との深いつながりを読み解くことができる。このガイドでは、平安の王朝文化を色濃く残す、やんごとなき(高貴な)お寺の魅力に迫ってみたい。
5月3日より、世界遺産である仁和寺と提携した公式オーディオガイドをリリースしました。仁和寺としても初の事例で、境内の中に10個のスポットを用意しそれぞれの場所でガイドを聴けるようになっています。仁和寺ガイドのテーマは「やんごとなさ(高貴さ)」。
仁和寺は、天皇陛下や皇室ととても縁が深いお寺。天皇が譲位(生きている間に天皇の位を譲ること)したのちに住んでいた住まいであり、史上初の法皇が生まれたお寺でもあります。つまりその創建以来、皇族に受け継がれてきたお寺と言えるのです。そのため、お寺のいたるところには菊紋が。そして、春になると京都の他の桜より数週間遅れて咲く御室桜も。
菊と桜が象徴的な仁和寺ですが、皇族に受け継がれたその歴史と、それぞれの時代に翻弄されながらもその役割を果たしてきた歴史を知ることで、ただ見るだけでは分からなかった景色が覗けるはずです。このガイドでは、平安の王朝文化を色濃く残すやんごとなき(高貴な)お寺の魅力に迫っています。
今回のガイドを制作した鈴木です。
仁和寺と聞くと、頭に浮かぶのは吉田兼好が書いた徒然草の「仁和寺にある法師」の文章ではないでしょうか。それはちょうど、こんなあらすじの小話。
「仁和寺の僧侶が石清水八幡宮に参拝したことがなかったので、ある時八幡宮に参ったが、ひとりで参ったので本殿に参らず帰ってしまった。何事にも案内者は必要である」。
この文はとても有名なので、小中学校で習った人も多いのではないでしょうか。私は、恥ずかしながら仁和寺を取材することになるまで、このお寺に関する情報は徒然草の「仁和寺にある法師……」くらいしかなかった。ほかに知っていたことといえば世界遺産になったことぐらい。それがどうでしょう。お寺のお坊さんにお話を聞き、文献を読みこんでいくと、このお寺は日本でもかなり特殊なお寺だということがわかりました。
皆さんは『門跡寺院』という言葉はご存知でしょうか?おそらく聞いたことがない人がほとんどだと思います。では『法皇』は?こちらのヒントは歴史の授業。この言葉は頭の片隅にうっすらと残っていないでしょうか?答えあわせをすると、『法皇』とは出家した天皇陛下のこと。おそらく歴史の授業で「鳥羽法皇」や「後白河法皇」の名前を習っているはず。『門跡寺院』はこの法皇が住職を務めたお寺のことで、仁和寺は史上初めての法皇が生まれたお寺だといいます。仁和寺と皇室の関係性は強く、西暦886年に創建されてから30代以上にわたって、皇室出身者が住職を務めたそう。その名残は境内にも残っていて、たとえば、境内で一番格式高いお堂は京都御所から移築されていたり、門に掛けられた幕には皇室の象徴である菊の御紋がデザインされていたりします。
冒頭の「仁和寺にある法師」ではないけれど、案内者がいない観光はテレビや雑誌で見たものの答えあわせになってしまいがち。「有名な〜を見た」で満足してしまってはもったいない。ガイドがいれば、さらにその先を知ることができ、知的好奇心が満たされる。ぼんやりとしていた仁和寺の姿も、背景と歴史を知ればよりくっきりと見えてくるに違いない。このガイドには、仁和寺の取材を通して見えてきた事実や発見をあますことなく盛り込んでいるので、ぜひ追体験してもらえれば嬉しいです。
ON THE TRIPライター・鈴木雅矩
最後に。撮影からインタビューまで(それもとても柔軟に)ご協力いただいた池上さん本当にありがとうございました。
ON THE TRIP. ぼくたちの旅は続く。