ー自己紹介をお願いします。
久保田荻須智広と申します。今までは久保田智広というふうに活動していたんですが、今回から久保田荻須智広という名義で作家活動を始めています。久保田が父方の名字になっていて、荻須が母方の名字になっています。それらを合わせて作家名としています。今までの制作としては主にインスタレーションと言ってしまえばいいかなと思うんですけど。新しく何かを作るというよりかは、今既に抱えているものに対してそれらをどう分担するか、ケアするか、どういうふうにうまく使いこなしていくか、そういうことを行うその行為そのものを作品にしていく、というようなことをしています。端的に言うと、模様替えだったり整理だったりとか管理だったりとか、そういう取りとめもないような行為を通じて制作行為に繋げていったりとかしています。今回は所有物の整理や管理にまつわる作品制作を行っています。
ー鑑賞者にどこを特に見てほしいですか。
はい。僕は普段その作品の見方というのが、2段階あるといいなというふうに思っていて、最初見て、内容がわからないまま見た状態でのインプレッションがどういうものかっていうのがまず一つあって。で、2段階目に、それの内容、コンセプト、由来だったりとかそういったものを見た上で、もう一度作品を見る。そうすると最初のインプレッションから少し違う受け取り方ができるようになる、そういうふうな見え方をしてもらえるといいのかなというふうには普段から思っていて。今回も同じように、作品としてはライトボックスのようなものがあって、それ自体がどういうものかっていうのを少し見ていただいた上で、じゃあこれはどこから来たものなのか、そういうものを見てもらうような感じにしていただけるととてもいいのかなっていうふうに思います。
ー本作品の制作に至った理由、経緯を教えてください。
2023年の5月頃に、横浜のBankARTのレジデンスに参加したときに、僕の実家が横浜にあったので、レジデンスの最中実家に結構寝泊まりをしていたんですよね。そのときに、あの祖父とすごく話す機会があって、その祖父の今困ってることというか、考えてることみたいなのをいろいろ話をしてくれたんですけど、彼はちょっとコレクター気質で、金貨のコレクションをしていたんですよね。記念硬貨、記念金貨。そのコレクションが、管理し切れなくなって、場所をすごくとっていて困っている。
家族からは早く捨てろと邪魔だと言われてしまって悩んでいたので、その時点でこの京都のレジデンスが決まっていたので、ではそれをどうにかするのを作品にしてしまおうという、そういうふうなことを考えました。BnAの展示は半年ほど展示させてもらえるということで、おじいちゃんのコレクションというのを半年間BnAに肩代わりして、代わりに預かってもらうようなそういうものを、コンセプトとして考えよう。そのための言い訳というか、そういった口実のための側(ガワ)の箱を作る。その記念硬貨を入れるための保存箱っていうものを作ってしまおう、というふうに考えました。それとその中身を整理するためのデータベースっていうのを一つにまとめて一つの作品として、構成しようと思ったのが今回の制作のきっかけです。
ー作品を通じて伝えたいことはありますか。
作品を通じて、そうですね。基本的に作品制作は、非常に個人的なものがベースになることが多いです。ただ、そういったミクロの事象っていうのがマクロ的に、社会の物事や出来事にどう繋がっていくかっていうことを結構考えてはいますね。なので結構プライベートな問題というのが他の人にも共有できるものだったりとか、個人ではなく組織だったり、国だったりとかそういったものにも紐づいてくるようなことっていうのは非常にあるかなというふうに思うんですよね。
やっぱりアーティストとしては作品をどんどん作り続けていかなきゃいけない、そういう使命がある中で、その作り続けるという行為が非常にいろんなところできしみを産んでいたりとか、負担だったりとか、そういうものに繋がっていくような気がしていて。そういったものを少し立ち止まって考えていく。積極的に、楽観的に作るというのがあまり僕には考えられなくて、現状をどうするかっていうことをまず考えて、それそのものを創作行為に考えることができないか。無邪気に作らないで、今あることをどう捉えていくか、捉え直していくか、そういうことが作品を通して間接的にでも伝えられたらいいのかなっていうふうには思っています。
ー制作の上でのこだわり、工夫点を教えてください。
創作する上での工夫やいつも考えてることは、オブジェクティブなものを極力作らないようにする、抱えられる範囲のものを作っておくっていうことを考えています。影響を受けた作家が何人かいて、例えばティノ・セーガルだったりとか、シャルロッテ・ポゼネンスケだったりとか、ソル・ルウィットだったりとか。
そういう物理的なものというのがそこまで重要視されていない作家だったりとか、そういった物理的なものを放棄するっていうような作家っていうのが成立しているっていう中で、おそらくそういったその造形、創作的なアプローチっていうのは、僕の場合も成立するんだろうなっていう、そういう見当をつけて制作をしています。なので美術館だったりとか、アートマーケットだったりとかで要請される作品というのを、例えば美術館の場合は巨大な作品で、マーケットでも絵画作品だったりとか、求められるそういったフォーマットっていうのがあって、そこをどうやって、いかに拒否していくか、拒否した上で成立させていくか、やっていけるかっていうことをいつも考えているんですよね。
なので、今みたいなその造形的なものが限りなく少ないものであっても、アートの業界だったりとかそういうコンテクストから離れないで接続したまま、ただそこの文脈の意識だったりとか、その業界が持つ考え方・メソッドっていうのを逃げつつ、自分の制作を続けていく。それが多分一番のこだわり、工夫してることなのかなって思います。
ー今回のアーティスト・イン・レジデンスはどうでしたでしょうか?
レジデンス自体は2回目だったんですけど、横浜のBankARTから引き続きで2回目っていうことなんですけど、非常に面白かったです。ホテルに1ヶ月滞在して制作できる機会っていうのがほとんど多分ないだろうなということで、ホテル自体もアーティストが手がけた部屋というので、面白かったし、その部屋の隣がもう展示室になっていたので制作をそのまま滞在と地続きでできたっていうのはすごくスムーズでよくて。しかもそのBnAの立地もかなりエリア的にも良くていろんなところにアクセスがしやすい。これは僕東京から来てるんですけど、東京よりもいろんなところにアクセスしやすくて、そういう立地の面でもかなり良かったですね。
同じようにホテルに他の4組のアーティストも滞在していてディレクターの筒井さんがいて、それぞれと話をしながらちょっとずつ作品を組んでいく。そのブレインストーミングも含めて、一緒にやっていくっていうのは非常に面白かったように思います。滞在は1ヶ月だったんですけどそれより前にどういう作品を作ろうかなというふうに考えてきて、現地入りしてから具体的な作品としてのアウトプットを形にしていった感じではあるんですけど、客室自体は工作ができるような感じでは元々はないんですけど、今回FabCafe Kyotoっていういわゆる工作室みたいなところと提携している関係でそこも利用できました。
今回に関しては、普段使っているレーザーカッターと、あとは刺繍ミシンっていうのを今回初めて使っていて、講習を受けながらこういうのが制作に組み込めるなというふうに、技術の面から作品のアウトプットに影響してきた部分もいくつかあって、そういった側面はすごく良かったです。僕自身は普段アトリエっていうものを持たないで制作をしているので、今回は自宅で制作するよりよっぽど制作自体はしやすくて、環境は特に恵まれていたなっていうふうに感じました。また遊びに行きたいなって思っています。ありがとうございました。
久保田荻須智広
12 white inventories
Set of 12. Each: H455×W333×D133 mm
個人の硬貨コレクション、塗装された木材、刺繍された生地、金具、照明類、コレクションデータベース