長さの異なる木材、透明な波板、三角屋根をしっかりと支える鉄骨。3つのシンプルな素材を組み合わせて作られたThe Fieldは、自然の風景に溶け込んだイベントスペースです。
The Workshop、The Table、そしてThe Field。この3つの建物は世界的な建築家、隈研吾さんが手がけています。The Fieldは、ヘルジアン・ウッドと立山のつながりを意識して作ったものだそうです。そう聞くと、左右非対称な木組は秋の時期の稲穂のさざなみのようにも、立山連峰のごつごつとした岩肌のようにも見えてきます。
この場所ではこれまでに、ウェディングやコンサートが行われてきました。
ラベンダー畑の畝の間に敷かれたホワイトカーペットを、新婦と父親が手を組んで歩いてくる。友人に拍手で迎えられた新婦は、本当に幸せそうに笑っている。それを見つめる父親が、ラベンダー畑の中でひとり涙を流す……そんな印象的な光景もあったと聞きます。きっとこれからも、この場所ではさまざまな名シーンが生まれるのでしょう。
ヘルジアン・ウッドはそもそも、どんな経緯から隈さんに設計を依頼することになったのでしょうか。
実は同時期に、立山では白岩地区に酒蔵を建設する計画が極秘で進行していました。それは、フランスのシャンパーニュの名門「ドン ペリニヨン」の元醸造最高責任者が世界ブランドの日本酒をつくるプロジェクトでした。その酒づくりをサポートしていたのが、富山県の有名な酒造メーカー桝田酒造店の蔵元、桝田隆一郎さんです。
ある時、桝田さんから前田さんに連絡がありました。前田さんが構想しているプロジェクト内容を聞いた桝田さんは、ヘルジアンウッドのコンセプトを聞き、強く共感してくれました。そして、酒蔵の設計をしていた隈さんを紹介してくれたのです。
隈建築といえば、国立競技場のように大きな作品を思い浮かべる人もいるかもしれません。しかし、本人の興味は小さな建築物に向かっているといいます。時代の変化にあわせて、人の手で作り替えていけるような建築です。
「小さな建物が点在するヘルジアン・ウッドは、僕がこれから世界で建築をやっていくうえで模範になる」。隈さんはそう話していたといいます。
完成後、隈さんは何度もヘルジアン・ウッドを訪れています。自ら手がけた建物を見て、「景色に馴染んでいるね」と頷いていたそうです。