・参拝とは何か
熱田神宮は24時間、開いている。それは、だれでも、いつでも、来てほしいからだという。夜の境内は誰もいないのかと思いきや、祈りを捧げる人の姿を見かけるかもしれない。そのとき、あなたはきっと思うだろう。夜の参拝者の祈りは長い。あなたもまたそうしてみてほしい。誰の目も気にせず、自分の内なる願いと静かに向き合えるその時間はきっと、あなただけの宝物になることだろう。

・ルールとは
夜の境内は灯りがついており、真っ暗というほどのことはない。しかし、物理的な暗闇には気をつけて参拝してほしい。夜に参拝してはいけないというルールはない。最低限のマナーさえ守れば、参拝はどこまでも自由だ。大切なのは、あなたが神様とどう向き合うかという姿勢である。鳥居の前で一礼し、手水舎で身を清め、二礼二拍手一礼をする。いつもの所作も夜の神宮では違ったように響くはずだ。

・草薙神剣の物語
熱田神宮の神職の人たちは、大切なことは、夜、口伝で教わるものだという。本当に大切なことは目に見えない、字にできないものなのだ。古事記や日本書紀の文章が真実であるとも限らない。音声ガイドで解説する草薙神剣の物語も口伝であると仮定して自分なりの解釈をしてほしい。夜の熱田神宮はあなたが自由に想像をふくらませることを手助けしてくれるはずだ。

・杜と森
参道を歩く途中で空を見上げてみてほしい。自分がいる場所は森の中であり、夜のそれは昼間と違う姿に感じるかもしれない。神社の「社」の語源は「杜」であり、「森」であるともいわれている。日本人は昔から森を神聖なものと考えてきた。そして、森を祈りや祭りの場とすることで聖なる力を感じてきた。それも、とりわけ夜の時間に。夜の参拝であなたはどんなことを感じるだろうか。

・砂利の音
夜の参拝では砂利の音にも耳を済ませてみてほしい。というのも、砂利を踏みしめる音は清めの音だと言われている。しかし、昔と今では音が異なるという。昔の砂利は今より厚く、その砂利は近くの川からたくさん採れた。しかし、現在ではそうもいかず、遠く佐久間ダムの底から砂利を運んできているという。昔はどんな音だったのだろう。想像してみてほしい。

・夜の大楠
境内にある大楠は夜、ライトアップされている。向き合ってみると昼間とは違った姿に見えるはずだ。視覚だけに囚われず、目を閉じることも試してほしい。人間が「音」として感じることができるのは20キロヘルツまでだが、神社という森の中ではそれ以上の超高周波も受け取っている。耳ではなく、皮膚で。全身で感じているのだ。五感のすべてを研ぎ澄ませながら、参道を歩いてみてほしい。

・初詣の由来
初詣の由来は、平安時代から伝わる「年籠り(としごもり)」といわれ、大晦日の夕方から元日の朝にかけて、神様のいる神社にこもり、新年の豊作や安全を夜通し祈る風習からきている。では、なぜ夜に祈るのか。それは、朝が待っているからかもしれない。大晦日の夜のあとには必ず初日の出という朝が来る。そのとき、人々は神様の存在を実感してきたのかもしれない。

・オホホ祭り
熱田神宮には「オホホ祭り」と呼ばれるお祭りがある。正式な名前は「酔笑人神事」。夜、真っ暗な境内に集まった神職たちは、まず最初の社でお面を受け取る。それから、ひとりが扇でお面を叩いたあと「オホ」と言うと、そのあとの笛の音にあわせて全員が「オホホ」と大声で笑い出す。そうしていくつかの社をまわり、最後に「清雪門」での大笑いが終わると、お面を箱に納めて戻っていく。これには、とある盗難事件が由来しているという。そして、およそ18年後に草薙神剣は再び熱田神宮に戻って来るのだが、その喜びのあまり「オホホ」と笑う祭りが生まれたと伝わっている。

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