あなたは、400年という月日をどのように感じるでしょうか。

長いでしょうか。短いでしょうか。

あなたの400年前のご先祖様はどんな姿でどんな暮らしをしていたのでしょうか。

保津峡の400年前の光景はどうでしょう。それが、現在とほとんど何も変わっていないのです。人が舟に乗り竿をさす川下りの光景が、です。保津峡の自然はといえば400年どころではありません。400年がほんの一瞬に思えるぐらい遥か昔から、この場所で変わらない生命の営みを繰り返してきたのです。

そんな保津峡の保津川下りを、神様の使いである私がご案内しましょう。

保津川下りはJR亀岡駅のそばにある乗船場からはじまります。駅に着いたとき、想像してみてください。その昔、亀岡という場所は湖の底でした。神様はこの場所に国をつくるために、山々を切りひらき、湖の水を京都のほうに流しました──そんな神話が伝わる保津峡は、およそ2億年前の地層からなる渓谷です。保津川下りでは、神様がモーセのように切り開いたとされる渓谷の壁すれすれを走っていきます。

その渓谷はあまりに細いため、船頭たちはその壁を竿でつきながら舟を走らせます。その壁こそが地球の2億年の歴史そのもの。保津川下りもまた400年という長い歴史がありますが、400年間、毎日竿をつき続けることで壁に穴が空き、その穴が10cmほど深まりました。みなさんは、そんな悠久の時間を感じながら川下りをすることになるでしょう。

これから、そんな保津川下りの歴史についてご紹介したいと思います。

その昔、保津川は雨が降るたびに増水して大暴れする川でした。そんな川を堰き止めて整備する人があらわれます。今でも保津川のことを大堰川と呼ぶ人もいますが、川をコントロールすることで人が暮らせるようになったのです。

それから時は流れ、およそ1200年前に奈良から京都に都が移されます。保津峡の人たちは「保津川がなければ、京都という都は存在しなかった」と話します。というのも、奈良の都は建築や生活のために必要な木を切り尽くしてしまい、住むことができなくなってしまったのです。都を移すなら、どこがふさわしいか。そこで目をつけたのが、亀岡の木材でした。そこには木材を運ぶための保津川が流れていたのです。

京都に都が移されたことで、保津川はたくさんの木材を運ぶようになりました。亀岡の山で切り出した木を筏のようにして組み、その上に人が乗り、保津川を下ります。みなさんが体験する川下りの前身です。そうして嵐山やその先まで木材が運ばれ、京の都や数々のお寺がつくられていきます。

たとえば、嵐山にある天龍寺、京都を代表する京都御所や二条城、大阪城もまた、この保津川を通して運ばれて行きました。それらの場所を地図で辿ってみてください。そのすべてが保津川→桂川→淀川と名前を変えながらも同じ川であり、保津川の延長線上にあることがわかります。

江戸時代になると、とある商人が保津川の整備にとりかかります。木材だけではなく、米や野菜も運べるようにしよう、そのために川の流れをコントロールしようというわけです。川底を削ったり、川の流れをよくするための石積を築いたり、緻密な計算によって、小型の舟も安全に川下りできるようになりました。これを、ショベルカーもない時代に幕府の力も借りずに独力で成し遂げたのが「角倉了以」という商人でした。こうして保津川は亀岡と京都をつなぐ貨物の道としても栄えていきます。

このときから数えて400年です。みなさんが乗る舟もまた江戸時代と同じ。細くて急峻な保津川にあわせて生まれた独特の舟。それが「高瀬舟」です。今と異なるのは、川下りを終えたあと、その舟を男たちが腕力で再び亀岡まで引き上げていたということぐらいです。

それから明治時代になり、鉄道が敷かれたことで、保津川は貨物の道としての役目を終えます。あなたも舟に乗っている間、トロッコやJRの線路を見かけることでしょう。鉄道の登場によって舟が役目を終えようとしていたそのとき、明治の日本を訪れていた外国の要人たちが「舟に乗ってみたい」と声を挙げました。保津川のような急峻なリバークルーズは西洋にはほとんどありません。壁すれすれを駆け下りていく日本ならではの川下りに驚き、彼らはこぞって紀行文に書き記しました。

その評判が評判を呼び、次から次へと観光客がやってきたことで保津川下りは日本の観光の先駆けとなりました。そうして、川下りの歴史はおよそ400年前から一度も途切れることなく、今日まで続いています。舟をあやつる技術はもちろん、川の整備も何から何まで当時のままです。

これからあなたが体験する保津川下りは、京の都を支えてきた文化を体感できるリバークルーズです。続きは、船着場や乗船中でもかまいません。日本で最も伝統ある川下りを、その悠久の時間と一体となる旅をお楽しみください。

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