明治維新から平安時代まで、1000年を遡る15の行列が通り過ぎました。これ以降の行列こそが、時代祭として最も大切な行列になります。とくに神幸列の中には、平安神宮に祀られている神様、桓武天皇と孝明天皇の御霊を乗せた「鳳輦」という神輿が登場します。明治維新から平安時代までの行列は、この神幸列の鳳輦にお供をする行列として京都を練り歩いていたのです。
時代祭の当日は、朝から様々な神事が執り行われています。まずはじめに桓武天皇と孝明天皇の御霊を神輿に乗せて京都御所まで送ります。それから様々な儀式が行われ、その後、再び平安神宮まで戻ってきます。その一場面が、みなさんが目にした行列ということになります。
最初の鳳輦に京都で最後の天皇である孝明天皇の御霊が、次の鳳輦に平安京で最初の天皇である桓武天皇の御霊が乗っています。そうして、京都の中心部を練り歩き、京都の町の繁栄ぶりや市民の暮らしぶりを見てもらうことが時代祭の目的です。目の前を鳳輦が通り過ぎる際は、手をあわせて拝む人もいることでしょう。みなさんも厳かな気持ちでお迎えください。
このあと、時代祭の行列は平安神宮の中に入っていきます。扉が閉まり、その先を見ることはできませんが、儀式は夜まで続きます。
この時代祭は、現代においてどんな意味があるのでしょう。平安神宮はすべての京都市民を氏子とする神社です。そのため、多くの市民が行列に参列します。京都の人たちにとっては、これまでの京都の1000年の歴史を振り返り、これからの京都をどうしていくか思いを馳せる1日になることでしょう。京都の人たちにとって、天皇が京都にいた1000年の歴史は誇りです。そのことを見つめ直すために時代祭が行われているのかもしれません。
衣装や道具を再現することにも意味があります。京都は伝統工芸が盛んな町ですが、この時代祭があることで現代のニーズとは異なる神様に捧げる最高級の工芸品を作る機会になります。職人たちにとっては腕をふるう絶好の機会であり、職人の技術を次世代に継承していくための機会にもなります。そこには、伝統工芸の元となる素材に関わる職人や工具を作る職人もふくまれます。時代祭の行列は京都の文化や技術を守ることにも深くつながっているのです。
あなたにとっては、どうでしょう。時代祭を通して感じたことをいつの日か、次の世代にも受け継いでほしいと思います。
※このガイドは、取材や資料に基づいて作っていますが、ぼくたち ON THE TRIP の解釈も含まれています。専門家により諸説が異なる場合がありますが、真実は自らの旅で発見してください。
ON THE TRIP 編集部
文章:志賀章人
写真:三宅徹
声:五十嵐優樹