この日、長さ120mにもなる千砂子波止が完成しました。石垣をよく見ると鶴や亀、瓢箪などが彫られているものがあります。これらは縁起が良いとされるシンボルで、職人さんの遊び心で彫られたのではないかといわれています。
千砂子波止ができたことで、御手洗を訪れる船はますます潮待ち風待ちがしやすくなりました。そして当時、中国地方でいちばんの大きさを誇る防波堤として「中国無双」と称えられ、活気のある港町として繁栄を極めました。しかし、今はどうしてこんなに静かな町になったのでしょう。
それは、明治時代になり、物流が蒸気船や鉄道に移っていく中で、次なる風を掴めなかったからともいわれています。その後の御手洗は港町としての役割を失っていく中、戦後の市町村合併によって町の中心機能も失い、高度経済成長の波にも乗れず、時代に取り残されたまま深い眠りについたのです。
そして、平成になって台風による大きな被害に見舞われます。自然の猛威によって壊滅した御手洗でしたが、奇跡的に江戸時代の町並みは残りました。そして、この町並みを後世に受け継ぐべきだ、という声が高まり、御手洗は深い眠りから目覚めていくのです。
みなさんはこの町を歩いて、どのようなことを感じたでしょうか。この町に宿泊し、満月の夜に千砂子波止を歩いていると、月の光が海に反射してムーンロードが伸びているといいます。また夏には天の川がかかり、別の顔を見せてくれることでしょう。みなさんも、これからも続く御手洗という町のストーリーにあらためてゆっくりと身を置きに来てもらえたらと思います。
※このガイドは、取材や資料に基づいて作っていますが、ぼくたち ON THE TRIP の解釈も含まれています。専門家により諸説が異なる場合がありますが、真実は自らの旅で発見してください。
ON THE TRIP 編集部
文章:志賀章人
写真:本間寛
声:奈良音花