この作品が展示されているのは、築100年以上の古民家です。佐渡金山と佐渡奉行所を結ぶ通りに建ち、かつては鉱山労働者の住宅として使われてきました。
ここで紹介されるのは、宮城県の細倉鉱山を撮影した写真群です。佐渡金山が世界遺産として脚光を浴びる一方、実際に働いた人々の暮らしが語られることは多くありません。佐渡金山は江戸時代だけでなく1989年まで操業を続けており、細倉鉱山と同じ時代を生きていました。だからこそこの展示は、鉱山での「生活の記憶」を想像するきっかけを与えてくれます。
細倉鉱山は、奥羽山脈の山麓にあり、鉛や亜鉛を主に産出した鉱山です。1941年に旧満州で生まれた寺崎英子は、幼い頃に家族と細倉へ移り住み、家業の売店を営みながら暮らしていました。1986年、細倉鉱山の閉山が発表されると、寺崎はカメラを手に町を記録し始めます。子どもたちや動物、働く人々──日常のささやかな光景を撮影しました。閉山後は、人々が去った後の町や、草むらに埋もれていく家々を丹念に追い続け、約1万1千カットものネガを残しました。
2016年、寺崎は75歳で亡くなりましたが、本展ではプリントされることのなかったネガから、その一端を紹介します。消えゆく町を見つめ続けた眼差しは、佐渡の金山の歴史と響き合いながら、鉱山で生きた人々の姿を静かに浮かび上がらせます。