砕く、挽く、押さえる。石は黙して語らぬまま、味を支える“もうひとりの職人”でした。

小豆島が醤油の島となった始まり、そのきっかけは石でした。およそ400年前、大坂城の石を切り出すために訪れた部隊が、調味料として持参していたのが紀州・湯浅の醤油でした。黒く滴るその液体に魅せられた島の人々は、湯浅へ学びに赴いたと伝わります。海が塩を生み、温暖な気候が発酵を助け、原料を運ぶ港も備えていた小豆島には、醤油づくりの下地がすでに整っていたのです。

それから400年の歴史を重ね、「醤の郷」と呼ばれる町並みが生まれました。明治の最盛期には400もの蔵が建ち並び、路地には木桶の香りと大豆を蒸す湯気が混じり合い、町全体が醤油の息づかいに包まれていました。その蔵を支えたのも石でした。石臼で小麦を挽き、重石が麹を押さえ、床や基礎を支えるのも石。土地を埋め立てるにも石が欠かせませんでした。

醤の郷では今も明治に建てられた蔵が現役で活躍しています。屋根や土壁が黒く染まっているのは、醤油の菌が棲みついている証。色が黒ければ黒いほど栄えているといわれています。

石と菌と人とが織りなしてきた営み。その下で熟成された醤油の香りは、いまも町を包み込みます。静かな石は何も語らずとも、時を超えて味と暮らしを支え続けているのです。

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