ようこそ慈恩寺にお越しくださいました。
早速ですが、寝転んで、または座って、天井を、見上げてください。

ここには、天があります。
人の手で描かれた、祈りの空。

天井に広がる、雲。
その中心に、龍。

まずは、その目を見てください。

どうでしょう。
どこから見ても、こちらを見ていませんか。

この龍は「八方にらみの龍」と呼ばれています。
どの位置から見ても、睨まれているように感じる。

なぜでしょう。

この先には、大切な仏さまがいらっしゃいます。
だから、悪いものが入ってこないように。
天から、にらみつけて守っているのです。

それだけではありません。

龍は、水を司る存在。

慈恩寺は、これまで四度、火事に遭いました。
この本堂も、焼失ののち、再建されたものです。

だからこそ。

火を防ぐため。
二度と失わないため。

水の神である龍が、
ここで見守っているのです。

そして、天女。

わたしたちは、音を運ぶ存在です。

仏の世界から、
幸福を、音にのせて降り注ぐ。

天井に描かれているのは、
この堂内に、幸せが降りてくるように、という願い。

ゆっくりと目を閉じてみてください。

音のシャワーが、
天から降り注ぐように感じませんか。

この天井に描かれているのは、
ただの空ではありません。

ここは、「兜率天(とそつてん)」と呼ばれる世界だといわれています。

未来の仏さま、弥勒菩薩が、
いま住んでいるとされる場所です。

やがてこの世にあらわれ、
釈迦のあとを継いで人々を救うまで、
そこで静かに説法を続けている──

そんな天の世界の情景が、この天井いっぱいに広がっているのです。

さて。

ここで、この寺のはじまりを、振り返ってみましょう。

およそ1300年前。
この地を訪れた一人の僧侶が、
その風景に心を打たれました。

背後には堂々とした山。
その丘を流れる清流・寒河江川。

この景観に感銘を受けた僧侶は、
都へ戻り、天皇に伝えます。

そして、この地に寺が建てられました。

慈恩寺。

その名前は、三蔵法師の経典をもとに法相宗を大成した
慈恩大師にちなんで名付けられたといいます。

その後、慈恩寺は都と深く結ばれながら、
時代ごとの権力者に守られていきます。

平安の貴族。
鎌倉の武士。
戦国の領主。

幾度も焼失し、
幾度も再建されながら。

江戸時代には、東北随一といわれるほどの大寺院となりました。

この堂内に、京や奈良で作られた仏像が伝わっているのも、
古くから都との強いつながりがあったからです。

最後に、壁に掲げられた絵馬をご覧ください。

そこには、二頭の馬が描かれています。

慈恩寺がある寒河江は、
古くから名馬の産地でした。
都との結びつきも、この馬を求めてという説があります。

この絵馬には、こんな逸話が残されています。

はじめに描かれたのは茶色の雄馬。
それが、夜になると絵から抜け出し、
村の農作物を食い荒らしてしまった。

困った村人は、白い雌馬を描き加えます。

それでも被害はおさまらない。

今度は、手綱を描き足しました。

すると今度は、夜ごといななき、
村人は眠れなくなってしまったといいます。

近年では、
手綱を書き加えたことでおとなしくなった、
という結末も語られています。

いずれにせよ、絵馬は、
神の乗り物とされた「馬」を奉納する風習に由来します。

名馬の産地である寒河江において、
それは特別な意味をもっていたのでしょう。

最後に、見上げてみてください。

龍は、にらみ。
天女は、音を降らせ。

四百年のあいだ、
この空の下で、人々は祈ってきました。

その祈りの時間の上に、
いま、あなたは立っています。

再び、見上げてみてください。

まなざしの先に、何が見えますか。

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