滝の裏側に、道があります。
水の轟音を全身に浴びながら、そのすぐ内側を歩いていく。振り返れば、滝はカーテンのように光を透かし、向こう側の緑がにじんで見えます。裏見ヶ滝。その名の通り、滝を「裏から見る」ための道が、ここにはあります。
その近くの森の中に、湯気の立つ露天風呂があります。なぜ、この島に温泉が湧いているのでしょうか。
答えは、八丈島という島そのものの成り立ちにあります。
この島は、ひとつに見えて、実はふたつの火山でできています。西に八丈富士、東に三原山。地図で見ると、その間だけくびれていて、まるでひょうたんのような形をしています。
先に生まれたのは、東の三原山です。いまからおよそ10万年前、まだ海の底だった場所で噴火が始まりました。噴火はやがて海面を突き破り、島として姿を現します。その後も噴火を繰り返し、およそ3700年前を最後に、三原山の活動は静かになっています。
西の八丈富士は、三原山よりずっと若い火山です。活動が始まったのは、およそ1万数千年前。八丈富士では、1605年にも噴火が起きています。いまから、およそ400年前のことです。
若い八丈富士が溶岩や噴出物を重ねるうちに、古い三原山とのあいだが埋まり、ふたつの火山はひとつの島になりました。
火山がある場所では、地下にも大地の熱が残ります。山に降った雨は、岩の隙間から地中深くへしみ込み、地熱に温められながら、長い時間をかけて巡っていきます。そして再び地上へ戻ってきたものが、温泉となるのです。
裏見ヶ滝温泉も、その恵みのひとつです。泉質は、ナトリウムと塩化物を多く含む強塩温泉。海を思わせるような、塩分の濃いお湯です。
滝をつくったのは、山に降った雨と、流れ続ける川です。その川が、火山のつくった大地を長い時間かけて削り、いまの谷と滝を生みました。
地下を巡り、熱を受け取った水。大地の上を流れ、岩を削ってきた水。
異なる道をたどったふたつの水が、いま、この場所で出会っています。
お湯に浸かりながら、耳を澄ませてみてください。
あなたの足の下、大地の奥深くには、もっと低く、もっと長い音が流れているはずです。それは、10万年前に海の底で始まった、この島の鼓動かもしれません。