この旅では、たくさんの教会を巡ってきました。けれど最後に訪れるのは、教会ではありません。船でしかたどり着けない、小さな洞窟です。奥へ五十メートルほど続くその洞窟は、高さも幅も五メートルほど。人が身を寄せられる場所は、ごくわずかしかありません。それでも、この場所を選んだ人たちがいました。
1868年、五島崩れと呼ばれる迫害が始まると、十二人がこの洞窟へ身を隠します。ここなら誰にも見つからない。そう信じていたのでしょう。暗い洞窟で祈り、身を潜める。そんな暮らしが、四か月ほど続きました。
あと少しでした。あと数年すれば、禁教は解かれるはずでした。けれど、ある朝。炊事の煙が、沖を通る漁船に見つかります。人々は捕らえられ、厳しい拷問を受けます。その傷は、生涯消えることはありませんでした。足に深い傷を負い、一生引きずって歩かなければならなかった人もいたのです。
洞窟の入口には、今、大きな十字架とキリスト像が立っています。この場所で信仰を守り続けた人々を忘れないため、後の時代に建てられたものです。
この旅で出会ってきたのは、教会の建物だけではありません。隠された祈りとともに生きた人々の人生でした。生き方は、それぞれ違いました。けれど、願いはひとつでした。「この祈りだけは、途絶えさせてはいけない。」信仰を守ったのは、教会ではありません。人でした。だから、250年以上の歳月を越えても、信仰は消えなかったのです。
あらためて、島の地図を見てみてください。
上五島は、日本の西の果てに浮かぶ島です。人々は、その島に行き着き、山に身を隠し、洞窟へ逃れ、それでも、祈りを手放しませんでした。そして、この旅では、上五島・中通島を西へ東へ、北へ南へと巡ってきました。その道のりを振り返ると、不思議なことに、島の形が十字架のように見えてきます。
もちろん、それは偶然です。けれど、この旅を終えた今なら、その形さえも、長い祈りが海の上に描いた奇跡のように思えてくるかもしれません。