「おにぎりの代わりになるパンが食べたい」
お米はお腹にたまるが、パンはお腹にたまらない。そんなイメージがある人も多いのではないだろうか。ある日、同じことをつるやパンのお客さんがつぶやいた。創業して10年ほどたった当時は、あんぱんやジャムパンなど、菓子パンが主流だった時代。
そんなとき、現在の専務西村豊弘さんのおばあちゃんが暮らしの手帖に「マジカルソース マヨネーズ」という特集を見つける。レシピは「卵黄、塩、こしょう、サラダ油」とある。今ではサラダ油を知らない人はいないだろうが、当時は菜種油など、油は必ず火を通すのが常識。そんな中、サラダ油はそのまま食べてもいい油として、画期的だったのだ。
しかしレシピの材料をみて、胃に負担がかかりそうと考えたおばあちゃん。食べ合わせとして、胃に優しいものはないかと考えていた。そんな時、向かいの本陣薬局の人から、近々キャベツの芯から作った「キャベジン」という胃にすごく優しい薬がでることを教わる。すると、キャベツも胃に優しいのではと考え、マヨネーズと一緒にはさんでできたのがサラダパンだ。そう、サラダパンのパッケージの緑色はキャベツ、黄色はマヨネーズを表しているのだ。
しかし、今売られているサラダパンにキャベツは入っていない。当時のサラダパンは評判もよく、隣町まで販売していた。だが、翌日にはキャベツの水分がでてしまい、売り物にならなかった。そこで何とか野菜で日持ちするものがないかと考え、たまたま家にあったたくわん漬けを千切りにして挟んだのが、今のサラダパンの始まりだ。
つるやパンの創業は第二次世界大戦後の1951年。その誕生には、戦後という時代背景が深く関わっている。創業者は西村さんのおじいちゃん。当時東京の大学で法律を学んでいた。卒業を間近に控えた年に、戦争は終戦を迎えた。日本は負け、大日本帝国憲法から、日本国憲法に法律が変わった。司法試験受験を考えていたおじいちゃんは、教授にその旨伝えると、仰天するような答えが返ってきた。
「法律が変わったから、受験したいならもう4年間勉強しなさい」
当時、親戚を頼り、学費を工面していたおじいちゃん。さらに4年間勉強するなど、現実的ではなかった。なんとかならないかと教授に相談したところ、意外なアドバイスをもらった。
「これからはパンの時代だよ。アメリカでは給食制度といって、みんなで一緒に食べるのがよしとされているんだ。GHQ指導で学校給食には必ずパンがでるようになる。だからきみの地元にパン屋がないなら、パン屋を始めて給食事業に一番に名乗りを上げたらどうだい?」
そこで「やります!」と答えたのがすべてのはじまり。教授が知り合いのパン職人を紹介してくれ、作り方を学びながら必要な機材を調達し、地元の中学を卒業した少年たちと一緒にパン作りをはじめた。つるやパンのルーツは、教授のつるの一声だったのだ。
木之本 つるやパン本店
滋賀県長浜市木ノ本町木之本1105
営業時間:月~土8:00~19:00、日・祝9:00~17:00
定休日:無休(臨時休業あり)
Tel:0749-82-3162