-あいそめ- 出逢い、 そして恋がはじまった場所

宮崎県西都市には、神話に登場するニニギノミコトとコノハナサクヤヒメの恋物語が語り継がれ、伝承地という形で残っている。地域の人は、この恋物語を歩いてたどれる道を“記紀の道”と呼んでいる。

記紀の道の伝承地の1つに、逢初川(あいそめがわ)という場所がある。ニニギノミコトがコノハナサクヤヒメを見初めた場所だ。二人が出逢い、そして恋がはじまった場所を、地元の人は“あいそめ”と呼び大切にしてきた。ある人は落ち葉を掃除し、ある人は花壇に花を植え、ある人はホタルがたくさん舞うようにと願い見守っている。このような人々の想いと共に大切に守られている場所だ。

この場所のすぐ近くに、二人が新婚生活を送る為に建てられた御殿の跡がある。八尋殿と呼ばれ、とても大きく立派な御殿だったそうだ。ここで大変興味深いのが、この地一体が“妻園”(つまぞの)という地名で呼ばれていることだ。どうしてここが、妻と呼ばれているのか。昔の人の気持ちになって考えてみた。

いつまでも出逢った時の気持ちを大切にしたいから。コノハナサクヤヒメを妻と呼び大切にしていたから。ここは妻のための場所だったと、地名として残すほど、地域の人々が大切にしてきた想いを感じる。

このように訪れる人それぞれが、古代ロマンを自由に想像すると同時に、『だからこの場所を大切にしたい』という想いも芽生えてくる。私がここを訪れたとき、オガタマの花びらを見つけた。オガタマの木は、実が神楽鈴の起源だと言われている。これもここが神話にまつわる神聖な場所だと、『だからこの場所を大切にしたい』という想いで植えたのだろう。

目を閉じて、川のせせらぎに耳を澄まし、古代の恋の世界を想像してみる。そうすると、ふと足下に落ちていた、花びらや野草がとても愛しく思えた。人々の大切にする気持ちが蓄積されたこの場所は、私の感性を素直にしてくれる。素直になる事は恋に限らず、何事にも力となる。だからここは私の好きな場所であり、大切にしたい場所、そして、これが私流の“記紀の道”の楽しみ方だ。


文:伊東修司
写真:門村康生

Select language