今回の作品の出発点は、世界で高い評価を受けている彫刻家のイサム・ノグチが手がけた光のオブジェ『AKARI(あかり)』を、現代の作品として再解釈することだった。

竹の構造を細いステンレス線に置き換え、和紙は世界一薄い紙と言われている典具帖紙を使用。通常、和紙を使った照明作品は光源を和紙で覆っているが、『SUKI(すき)』は和紙と和紙の間(あいだ)に間(ま)があることで、床や壁に幾何学的な影を投影する。

もともと自分の手を使って照明をつくるのが好きで、SUKIの原型となる小さい照明作品を作っていたが、ローザンヌ美術大学の修了制作をきっかけに全体的に洗練させ、今年のミラノサローネサテリテにて現在の形で発表した。

手を使って制作する理由は、造形物としての彫刻的な美しさをとても重視していることにある。特にクラフト的に物を作る場合、身体感覚や動きそのものが成果物に反映されるため、微妙な、1ミリ単位、ときには0.1ミリ単位のかたちの違いや仕上げの違いが集積され、ある種の作品の雰囲気が立ち上がってくる。

自分の手で全てを作っていくので、製法を一から考え、ノウハウを構築していくのは大変だった。たとえば、紙をステンレスの構造に張るときに、障子張りの時によく行われる、紙に張りを出すための”水張り”という手法。これを応用するとき、ただ水をスプレーするだけですとシワシワになってしまうため、湿度を上げ下げする工夫が必要になる。紙の特性についての論文なども読みながら、技術を確立した。現在は、使用される予定の国の平均湿度を調べて、それに応じて紙を張る時の適切な湿度を算出するなど、細部にまでこだわり、理想的な造形を維持している。

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