伊勢神宮には「内宮」と「外宮」がある。
内宮でまつられている神様は「天照大御神」。天を照らす太陽のような存在であり、神様の中で最も格が高い最高神である。にもかかわらず、内宮より先に外宮をお参りするのが「習わし」とされている。それはなぜか。
外宮でまつられている神様は「豊受大御神」。天照大御神の食事のお世話をする神様であり、お供えが必要なあらゆる儀式(式年遷宮をのぞく)が外宮からはじまる。それに習って、ぼくたちも外宮からお参りしようというわけだ。その由来をみていこう。
内宮が建てられたのは、およそ2000年前。
神話によると、天照大御神は理想の土地を求めて旅をする。そして、伊勢に辿り着いたときにこう言った。
「この神風の伊勢の国は常世の浪の重浪(しきなみ)帰(よ)する国なり。傍国の可怜(うまし)国なり。この国に居らむと欲ふ」
天照大御神は伊勢のことを「うまし国」と言った。「うまし」とは美しいに加えて「美味しい」という意味もある。伊勢は海の幸と山の幸に恵まれた理想郷であると言ったのだ。しかし、どんなに食材が豊かでも料理人がいなければ美味しくはならない。そこで豊受大御神を呼び寄せたという。
「我が御饌都神豊受大神を我許に」
こうして、内宮の完成から500年後に建てられたのが外宮である。
しかし、「外宮は内宮の神様の食事のお世話をするところ」と片付けてしまうのは早計かもしれない。
人を良くすると書いて「食」。食は人間にとって欠かせないものであり、エネルギーのいちばんの元になるもの。それは、神様にとっても同じなのかもしれない。天照大御神にも力を発揮するためのエネルギーの元が必要であり、それを影で支えている存在が豊受大御神ではないだろうか。
たとえば、外宮では「日別朝夕大御饌祭」という祭りが「毎日」おこなわれている。これは天照大御神の食事をお供えする祭りであり、外宮が誕生して以来、1500年ものあいだ、1日として欠かすことなく続けられている。にわかには信じられないことであるが、その背景にはどんな想いが秘められているのだろうか。
このガイドでは伊勢神宮の基本とともに「日別朝夕大御饌祭」について紹介したいと思う。