高知県に来て最初に読んだ本は「県庁おもてなし課」。そこに、こんなセリフがあった。

「こうやって地図で見ると一目瞭然ですろう。自然が多い。海、山、川、そして仰げば自然を見下ろす空。何でもある。しかも、それ らが全部かなりきれいに保たれちゅう。高知県が自慢できるものといえば豊かな自然です」

さらに、こんなセリフも。

「自然、ことに山間部がきれいに保たれちゅのも道理です。高知の自然は、開発がおさおさ入れる余地がないばぁ峻険やったき、手を 入れようにも入れざった。やき今までこれだけの自然が保たれた。それがある一面の真実じゃ。都市として発展できる場所には平野が ある。あるいは山を削って平野が作れる。高知は宿命的に都市として発展できん地形の苦を背負っちゅうがですわ。今はようやく高速 が通ったが、交通の便も悪い。平地が少ないうえ地理が悪いとなると、企業の誘致にもむかん」

そして、小説の「県庁おもてなし課」が掲げるコンセプトが「アウトドア&ネイチャー」である。ぼくたちに課せられたテーマもアウトドア。まさに、であった。

「仁淀川はなぜ青いのか?」 その問いをテーマに加えて旅をした。

ぼくたちはオフェスであるバスを仁淀川沿いの波川公園に停めさせてもらって、1ヶ月ほど取材を続けた。こんな仕事だから曜日感覚 がなくなっていたが、ここに来て思い出した。波川公園には毎週土曜日になるとたくさんの車が集まってくるからだ。そして、キャン プ道具を広げて、家族で、仲間で、語らいあう風景が見られた。11月にもかかわらず、テントに泊まっていく人たちも必ず1組はいた。 平日にしてもそう。昼間から乗用車が一台やってきて川沿いに停車したかと思えば、エンジンを切ったまま降りてこようともしない。 サボりの常習犯であろうオジサンたちが川を見ながら昼寝しているのだ。

仁淀川は「親水率」がいちばん高い(にもかかわらず水質が良い)といわれるが、実際に仁淀川のそばで暮らしてみるとそのことがよくわかった。

波川公園から日高村へ、佐川町へ、越知町へ、仁淀川町へ。伊野町や土佐市、高知市内もふくめて。

さまざまな分野の高知のコーチに会いにいった。そして、仁淀川の遊び方を教えてもらったが「少年のような目」とはこのことで、コーチの瞳こそ透明度が高い。それこそ仁淀川 のように澄んでいた。

人間は歳をとればとるほど人生が顔に出るものだが、それが瞳に集約されているように感じたのだ。

川は住民の心を写す鏡。これは、とあるコーチが最後に教えてくれた言葉だが、取材の終わりにそれぞれのコーチと並んで仁淀川を眺 めていると、ふとコーチの瞳に仁淀川が写り込むように思える瞬間があった。その瞳が仁淀ブルーに染まっていたと言えるほど世界は うまくできてはいないが、しかし、彼らのそのまなざしこそが、仁淀川の青さの理由ではないかと思った。

毎週土曜日に、平日の昼間に、通学途中に、市内に買い物に行く途中に。何十年と仁淀川を眺めてきた彼らのまなざし。それは、ぼく たちが向けるまなざしとは、年季が、温度が、親しみが違っていた。この「まなざし」を持てる人がいるからこそ、仁淀川は現代も青 さを誇っているのかもしれない。

逆にいえば、このようなまなざしで川を見れる人がいなくなったとき、川は青さを失ってしまう。都会の川も昔はきっと青かった。しかし、そのまなざしはいつしか川に向けられなくなった。あるいは、そのまなざしを取り戻すことができれば、都会の川も青さを取り 戻すのかもしれない。

抽象的ではあるが、「コーチのまなざし」。それが、ぼくたちの思う「仁淀川はなぜ青いのか?」の答えであるとひとまずはしておき たい。そしてまた仁淀川に来るたびにぼくたちはコーチに会いにいく。そして、その答えにもっと迫っていきたいと思う。

また、今回は仁淀川を中心に旅をしたが、高知には海・山・川がまだまだある。さらなる絶景&アクティビティを探すためにも、

ON THE TRIP. ぼくたちの旅はつづく。








ON THE TRIP 編集部
文章:志賀章人
写真:本間寛







※このガイドは、取材や資料に基づいて作っていますが、ぼくたち ON THE TRIP の解釈も含まれています。専門家により諸説が異なる場合がありますが、真実は自らの旅で発見してください。

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