目の前に棚田が広がる絶景レストラン「農家レストラン だんだんの里」で昼ごはんを食べていたときのこと。

ふと、店のおばちゃんに聞いてみた。橋のあたりから長者の棚田を撮って「高知のマチュピチュ」と紹介する写真をよく見かけるが、「個人的にここから見る棚田がいちばん好き」というポイントはありますか? と。うーん、と悩みながら教えてくれたのは「長者の大イチョウ」越しに見る棚田。イチョウの木の裏にある墓地から眺めることができる。

それにしても「長者」という地名はどこからきたのか。

ある伝説によると、その昔、阿波にいたお金持ちがこの地にやってきた。そして、立派な家を建てて暮らしはじめたお金持ちを人々は「長者さま」と呼んだという。しかし、この話には続きがある。

あるとき、お遍路さんがこの村にやってきた。「一晩、泊めていただけませんか」と乞われた長者さまは「汚い身なりをしおって」と追い払った。そのお遍路さんは近くの老夫婦の家に泊まることになったのだが、泊めてくれたお礼に「手ぬぐい」を老夫婦の家に置いていった。老夫婦がその手ぬぐいで顔を拭くと、みるみるうちに若返っていくではないか。

その噂を聞きつけた長者さまはお遍路さんを追いかけて「わしにも手ぬぐいをくれ」と頼む。どうぞ、と手渡された手ぬぐいで長者さまが顔を拭くと。なんと、真っ赤な顔のサルになってしまい、あわてて山に逃げていったそうな(諸説ある)。

ちなみに、棚田の石垣は阿波の職人たちが手がけたもの。「長者さまも阿波からきたお金持ちだから、ひょっとしたらそのときの棟梁だったりするのかもしれませんね」と話してくれた人がいて、さもありなんという気がした。

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