その昔、この家の女中がカマドの火をもらいに表通りに出ると、不思議な葬列に出会った。ひょんなことから棺を預かることになり、中を開けると「毘沙門天像」が入っていた。これを祀ると家が繁盛したので「毘沙門屋」という屋号にあらためた。毘沙門天像は、現在も神棚に祀られているという。
さて、この家もタツミチを歩いて良いことになっている。先ほどの「菊谷」と道の長さを比べてみると、あきらかに毘沙門屋のほうが長い。毘沙門屋は門の手前で川を越えることなるが、菊谷に川は見当たらない。川が流れていないわけではない。建物の後ろで流れているのだ。
毘沙門屋のように川の奥に家があるところを「本御師」。川の前にあるところを「町御師」と呼んでいた。新しく御師として開業した家は、町御師になることが多かったという。