「人はなぜ、これほどの豪雪地帯に住み続けてきたのか?」雪国で暮らす人たちに同じ質問を続けてみると、いくつかの共通点が浮かび上がってきた。
たとえば、「雪国の山菜はあきらかに美味しい」ということ。あるご老人は「冬のあいだ、雪のお布団がゆっくり眠らせてくれるから、春に美味しい農作物ができるんだよ」と表現したそうな。もちろん山菜だけではない。野菜や米、あらゆる土壌に雪のお布団が効いているのだ。
もうひとつは「雪に埋もれる冬が終わり、春が芽吹く瞬間がたまらない」という話だ。ぼくたちが雪国を訪れたのは、ちょうど雪解けの季節でもあったが、人々の心のたかぶりが鈴の音になってリンリンと町にあふれ出しているような雰囲気だった。
どちらも、言われてみれば当たり前のことだと思うかもしれない。しかし、ある人は「藤原山の稜線に浮かぶブナの木」に春を感じ、またある人は「枯れきった地面から新芽が出てくる不思議」に春を思う。同じことを言っているようでも、それぞれが思い浮かべる風景は違っている。
もっと旅を続ければ、より雪国の人たちの深部を知れるのかもしれない。が、北越雪譜を書いた鈴木牧之は「雪国のよいところ」として、次のようなことを書いている。
「ソリが使えること。いい布が作れること。雪んどう(かまくらのようなもの)。芝居の舞台をぜんぶ雪で作れること、屋台に必要な物も雪で作れること。獣や鳥を捕らえやすいこと。雪が家を埋めて逆に寒さから守ってくれること。夏でも山の雪で包んでおけば肉が腐らないこと。土地が肥えていること」
そして、こう結ぶのだ。
「ほかにもよいところはたくさんある。このようにしてみれば、どんな場所でもそれぞれどこかよいところをもっていると言えよう」
きっと、あなたの故郷にもよいところがたくさんある。たとえ、何もないように見える田舎でも、騒がしいだけのように思える都会でも。ぜひ、そのところを見直してみてはいかがだろうか。
ON THE TRIP 編集部
文章:志賀章人
写真:本間寛
音楽:koji itoyama
訳:野原海明
声:五十嵐優樹
雪解けの音、畦道の蛙の声、漬物を噛む音、さまざまな「雪国の音」を採集した。ひとつひとつのガイドのナレーションに採集した音を取り入れたのだが、あなたは、どんな光景を想像しただろうか。
そして、エンディングに聞いてもらいたいのは「雪国の春」という曲。
ぼくは、音楽家のkoji itoyama氏に採集したすべての音源を託した。そして、雪国の春を象徴する、ひとつの音楽をつくってもらった。旅の終わりに、あるいは、この旅を思い出したいとき。ふと、この曲を耳にあててもらえたら嬉しく思う。
koji itoyama
音楽をつくるにあたって事前に言われた、「雪国の冬は想像を絶するんです」という言葉。僕にとって想像を絶する雪とは文字通り想像の範疇を超えており、インターネットで検索しても「綺麗な景色だなぁ」なんてのんびりした感想しか降りて来ませんでした。
でも録音されたナレーションや食べ物の音、歌から、なんとなく、でも割とハッキリと雪国の暮らしの匂いが漂ってきた気がして。それをもとに煮込んで転がしてなんとか音にしました。
今回つくった音楽では、ただブラウザ越しに見た景色ではなく、長い冬を超えて春の兆しを体いっぱいで感じる、そんな暮らしのドキュメンタリーを描いています。たくさん現地の音を使っているので、どうかじっくり聴いてみてください。
※このガイドは、取材や資料に基づいて作っていますが、ぼくたち ON THE TRIP の解釈も含まれています。専門家により諸説が異なる場合がありますが、真実は自らの旅で発見してください。