《Anechoic Sphere - Reflection/Inflection》(2019.09.27-11.24)



かつての理想郷は、現代の人々の創造をかきたてる場にもなっている。中津万象園では、2019年の9月から11月にかけて日本庭園を舞台とするサウンドアートの展覧会「聴象発景」が実現した。
これから流れる音は実際に庭園内の茶室「観潮楼」で展示された《Anechoic Sphere - Reflection/Inflection》の一部。サウンドアーティストのパイオニア鈴木昭男が園内に設置したリスニングスポットの作品《点音(o to da te)》から集音した音や、庭園内の様々なスポットや季節で録音された音源が、evalaによって幽玄な立体音響作品に仕上げられた。ふたりのアーティストによるコラボレーションといえる作品だ。
じっくりと感覚を研ぎ澄まし、庭園の様々な場所で見つけた音を際立たせることで、ひとつの「音の景色」を作る。鈴木とevalaが用いたこのアプローチは、庭の魅力を漢詩に込めようとしたかつての殿様と通じるところがあるかもしれない。

evalaは、この作品への取り組みが自身でも新たな境地を切り開いたと語る。これまで彼は、無響室などの閉ざされた空間で体験できる作品を多く発表してきたが、今回、中津万象園という舞台に出会ったことで、この日本庭園が持つ豊かな音響空間を活かした作品に挑戦した。
「真っ白なキャンバスに絵を描くのではなく、今そこにある生態系とともに共存していく作品のあり方がある」と彼は語る。
実際の展示では、この音響作品に加え、観潮楼の中に設置されたマイクを通して《点音(o to da te)》からのリアルタイムの音が流れ込み、さらに開け放たれた茶室の窓から自然の音が入ってきた。
3種の音が混ざりあい、展開されていた音の旅は、ふたつと同じものがなく、その時その場でしか体験できないものではあったが、今庭園でこのガイドを聞いているあなたも、作品のエッセンスを少し体感できることだろう。



※このガイドの最後に流れるサウンドは、本作品から一部を抜粋しBGM用に再編成したものです。

Select language