菅原道真の亡骸は牛車に乗せて運ばれた。そして、牛がうずくまった場所にお墓が建ち、太宰府天満宮となった──この物語には続きがある。といっても、京都で語られているパラレルストーリーだ。
『道真の死後、京都では天変地異が続く。さらに、藤原時平など道真を左遷に追いやった黒幕たちが続々と不審な死を遂げていく。「これは祟りに違いない」そんな噂が広がり、ついに天皇も「道真は無実である」と認める発表をする。が、天変地異はおさまらない。それどころか「この事態をどうしたものか」と会議していたその建物に雷が落ちて多数の死者が出た。「なんとか道真の霊を鎮めねば」と京都に神社が建てられた』
日本には菅原道真=天神様を祀る神社が12000社はあると言われている。その総本宮こそ太宰府天満宮。それは太宰府天満宮が道真の墓所の上に建れられた聖地であるからにほかならない。
太宰府天満宮の信仰にはあくまで祟りや怨霊の要素はない。どのような状況に置かれても天を憎まず人を恨まず誠を尽くした誠心の神様として祀られている。そして、その人柄は1100年の時を超えて多くの人たちを魅了してきた。そして、今日も太宰府天満宮はたくさんの人が集まる場所であり続けている。
あなたは、太宰府という土地から何を感じただろう。「物語を聞いて終わり」ではなく、その先を想像してほしい。そのヒントになるエピソードを紹介したい。そんな思いでこのガイドを制作した。
星の王子様は「たいせつなもの」を取り戻す物語。「たいせつなもの」を見失って故郷を飛び出した王子様は、旅をしていくなかで、ほんとうに「たいせつなもの」が何かに気づく。「砂漠が美しいのはどこかに井戸をかくしているから」「星が美しいのは目に見えない花が咲いているから」目に見えなくても、そのことに思いを馳せることで「たいせつなこと」が見えてくる。そういう体験を、この旅で何かひとつでも持ち帰ってもらえたら嬉しく思う。
最後に、梅花の宴で歌われた32首の中で、ぼくがいちばん好きな歌を紹介させてもらうことにする。
『万代に 年は来経とも 梅の花 絶ゆることなく 咲きわたるべし』
はるかな世までも年は来ては過ぎ去ってゆくが梅の花は絶えることなく咲き続けるであろう──
ON THE TRIP 編集部
文章:志賀章人
写真:本間寛
声:守矢光秀
取材協力
井上信正
味酒安則
森弘子
※順不同
写真協力
鬼瓦 重要文化財 福岡県太宰府市・都府楼跡
九州国立博物館蔵
※このガイドは、取材や資料に基づいて作っていますが、ぼくたち ON THE TRIP の解釈も含まれています。専門家により諸説が異なる場合がありますが、真実は自らの旅で発見してください。