「いやー横手市さん、やっちゃいましたね」

まんが美術館がリニューアルオープンした2019年、リニューアルオープン記念の式典に訪れた招待客たちに口々に言われたこの言葉は、まんが美術館を担当するものの間でいまだに語り継がれている。当時「マンガ」という大衆文化にこれだけの公費を投じるというのは、とても挑戦的なことだった。そんな取り組みの集大成で、もっとも力を注いだのが、最後にお見せする「マンガの蔵」。

ここまで先駆的な試みを、行政である市と、地元の人たちと、著名な漫画家たちが協力し実現できたのは、この地域の特性もあるかもしれない。

まんが美術館のある増田地区は、古くは江戸時代から続く蔵が数多く残る国の重要伝統的建造物群保存地区。マンガ原画の収蔵庫「マンガの蔵」はそんな蔵のある町に生まれた、世界最先端の日本のマンガ文化を見て、知って、学ぶ、現代の「蔵」で、この美術館の要(かなめ)である。

「マンガの蔵」のコンセプトは「魅せる収蔵」。原画の持つ細やかな情報を記録し、デジタルデータ化するアーカイブルームも、紙の酸性化を防ぎながら原画を適正保存する原画収蔵庫も、すべてガラス張り。これまで一部の人しか知りえなかった美術館のバックヤードで行われる「アーカイブ作業」を臨場感たっぷりに見学できるようになっている。

また、ここでデジタル化された原画を検索して呼び出せる、大型のタッチパネルでは、繊細なペンさばきや作画タッチなど、作家や作品ごとに異なるさまざまなマンガの表現手法をつぶさに鑑賞することもできる。

さらに原画をじっくり見られる「ヒキダシステム」では、引き出し付きのキャビネットに原画が収納され、上から順に引き出しを開けていくと、1話分の原画をすべて見ることができる。原画でストーリーが読める、貴重な体験だ。

原画をとおして、未来の漫画家へ語りかけるこの美術館の可能性を、この町の人たちは信じた。そして、マンガという新たな文化を継承し、次世代につなげることにしたのだ。ちょうど、彼らの先祖が増田の蔵の伝統を脈々と受け継いできたように。

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