深紅の旗や独特なお囃子に異国情緒を感じさせるお熊甲祭は、かつての熊木郷、現在の七尾市中島町で行われる。国の重要無形民俗文化財に指定されているこの祭りは、本社である久麻加夫都阿良加志比古神社のもとに、19の末社が集まる「寄り合い祭」の形式をとっている。9月20日に行われることから「二十日祭」とも呼ばれている。

展示されている枠旗は、19の末社のうち、中島白山社から譲り受けた「大旗」だ。展示中のものは高さ16メートルだが、20メートルを超える大旗もある。担ぎ手が大勢必要になる大旗は、今ではあまり使われなくなり、やや小ぶりの「中旗」が一般的となっている。

上部に飾りが入れられたこの旗は「錦紗旗」と呼ばれる。旗の中でも位が高く、大変高価なものだ。刺繍される文字は、それぞれの末社の思いがこめられている。旗にくくりつけられている猿のぬいぐるみのようなものは「サルノコ」と呼ばれている。降臨する神の使いだとか、お迎えする人形だとか、いくつかの説があるが定かではない。

9月20日の早朝になると、それぞれの末社から神輿や枠旗を担いだ行列が本社を目指して出発する。カキ舟二隻を舫って、その上に枠旗を立て、海を渡ってやってくる末社もある。それぞれの行列を先導するのは、天狗面をつけた「猿田彦」だ。古事記に登場する猿田彦は、天孫降臨の際に道案内を果たした神である。狩衣のような衣装を身につけ、鳥甲をかぶり、1メートルほどの竹に色とりどりの紙テープをまきつけた面棒(メンボー)を持っている。この棒は、道を祓い清めるための道具だ。鉦や太鼓を引き連れた華やかな行列は、「イヤサカサー」のかけ声と共に枠旗を持ち上げ、勇ましく本社に入場する。

19末社がすべて本社に参入すると奉幣式が始まる。それぞれの末社の猿田彦が一斉に乱舞する様子は、19の地区の祭りが同時に行われているようなにぎやかさだ。ちなみに、この猿田彦の踊りには、決まった振り付けはない。思い思いに踊り乱れるのだ。

神事の後、それぞれの末社の行列は、事前にくじ引きで決めた順番で本社から出発する。本社から700メートルほど離れた加茂原は「お旅所」と呼ばれる。お旅所では鉦や太鼓がいっそう激しく打ち鳴らされ、男衆たちにも熱が入る。枠旗を勢いよく持ち上げるだけでなく、「島田くずし」などの妙技がここで披露される。

島田とは、若い女性が結う島田髷のことだ。傾けられた枠旗のてっぺんが、祭り見物の娘の島田にあたり、その日本髪がくずれたことから名付けられたと言われている。

さて、「島田くずし」とはどんなものなのか。「綱持ち」役になった気分で体験してみよう。

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