このアートルームは「時を浮遊する部屋」というテーマのもと、現代と伝統の技術を用いながら制作されたもの。503号室と603号室は対の部屋となっており、503の黒い部屋は「2019年の現在」、603の白い部屋は「3019年の未来」をイメージして制作された。どんなものにインスパイアされ、どのように作品が制作されたのか。そのヒントは部屋に流れる映像や、枕元に置かれたビジュアルブックに隠されている。

この部屋を手がけたアーティストのSHOWKOは、330年続く京都の茶陶の窯元に生まれた陶芸作家だ。彼女が手掛けた美しい色彩の陶板作品を間近に、見て、触れ合う時間をどうか楽しんでいただきたい。

彼女が描いた「現在」と「未来」。そこにはどんな意図が込められているのだろうか。アーティストの言葉から、もう少しひも解いてみよう。

ーー自己紹介をお願いいたします。

焼き物の仕事をしています、SHOWKO(ショウコ)といいます。肩書きは陶板画作家と「SIONE(シオネ)」というブランドを自身で持っているので、SIONEのブランドディレクターと名乗っているんです。主に陶磁器を素材として、制作をしています。

ーー焼き物、陶板の作家活動とSIONEというブランドについて、それぞれについてもう少し詳しく教えてください。

SIONEというブランドは、「読む器」というコンセプトで。まず自分自身が物語を執筆して、その一節一節を読み進めてもらえるような器をつくっているブランドです。陶板画の方は、ここにあるものと同じように平たい焼き物の板に絵を書いて、それを何度も釉薬(ゆうやく)を乗せては焼いて、乗せては焼いてと、繰り返す技法でつくっている焼き物の絵になるんですね。焼き物の技法は、大まかにいうと一緒なんですけれども、絵付けの技法としては違った技法を使っているんです。でも全部につながっていくものが、「生きとし生けるもの」だったり、「生命の賛歌」みたいなものが根っこのテーマにあるので。そういう意味では、同じようなことを表現しているのかなと思いながら、活動しています。

ーー2つの活動の比重とか、自分の中で使い分けるポイントはあるんですか?

ありますね。SIONEのほうは、どちらかというとあまり作家として名前をださないというか。ブランドのコンセプトをしっかり決めて、そこに通じる技術でつくっているというところがあるので。あまり私自身の表現が前に出てこないように、というのはブランディングとして工夫しているところなんですけど。

ーープロダクトに近いような展開になるんですか?

そうですね。ただ「読む器」とか、クリエイトの一番最初のコンセプト部分は自分で作っているので。平たく大きくいうと、自分のアートワークの一つではあるかなと思っています。

ーーそれに比べて、作家として、ご自身の名前での活動はどういう思いとか、コンセプトで活動していらっしゃるんですか。

私は焼き物の専門学校に二年行きまして。京都生まれ京都育ちで、京都の学校に行ったので、その後にどこか修行に行きたいなということで色々と検索をしていたんですね。焼き物の絵付けの専門学校に行っていたので。絵付けだったら九州の有田とか石川県の九谷とか、そういうところが有名なので「絵付け 有田」という風に検索をしましたら、私がお世話になった先生のところがヒットしたんですよ。その先生が、陶板画の技術で仏画を描く先生だったんですね。それで向こうに行って、技術から色んなものの考え方まで、本当に厳しくやさしく育てていただいたんです。技術的なことも学んだんですが、何か…。佐賀県という場所でもあったので、すごく自然が近くて。毎週お茶道具を持って、一人で山登りをしたり、冬に滝行をしたり。友人もほとんどつくらず、仙人みたいな。

ーー陶芸のイメージ通りな生活…!

一人も友人ができなかったぐらい。でもそうやって自然と戯れるような二年を過ごしていたので、 自然への気持ち、大きな存在に支えられているような気持ちだったりとか、自分自身の身体を、身体を観察しながら、精神の揺れ動き方を観察できるような。今、考えると本当に最高の2年ですよね。なかなか忙しい時って、そういうことができないんですけれど。そういう二年を過ごさせていただいて、その中で自然への「脅威」と「驚異」、両方の意味をもったことへの対応の仕方を自然と学ばせてもらって。

きっと人間も、その一部だったりしますし。始まりから終わりまで、生まれてから死ぬまでとか、いろんな物事が始まってから終わるまでの間に良いことだけじゃなくて、悪いことだったり、いろんなものを内包した時間そのものがすごく愛おしく感じた瞬間があったんですね。それを表現できたらいいな、何か肯定するような力になるようなものがつくれたらいいなと思いました。それがこの陶板画で描こうと思った、最初のきっかけになります。

ーー今回の作品もある種、内包する時間を「過去と未来に内包する時間を感じる」というのが、テーマであると思うんですけども。手がけた二部屋のタイトルと解説、概要の解説をお願いします。

503と603号室、つながっているような部屋になるんですけれども、503号室が「2019」、603号室が「3019」という流れになっています。これは部屋をつくった年と、その1000年後の世界をテーマにしているんです。私は実家が焼き物をつくる家で育ったので、焼き物は割と身近に感じる素材ではあったんです。同時に「なんでわざわざ焼き物を使ってるんだろう」というのもずっと自分の気持ちの中にあって。なくなるものをつくっている人が羨ましいなと思った時代も、実はあるんですよ。

ーー陶磁器というものは、なくならずに残ってしまうと。

そうなんですよ。ある意味、産業廃棄物になってしまうものでもあるんですよね。なので、つくるうえでの責任があるものだなぁという風に思ったり。でもふと思った時に、私たちが今、縄文式土器が見れるように、私が今、この瞬間に作ったものも、縄文式土器よりも高い温度で焼いているので、もっともっと長くつづいて、残っていくんだなと。もしかしたら1万年以上、風化するまで5万年ぐらい残るかもしれないものをこの時期につくっているというのは、未来への手紙みたいなものでもあるのかなと。違う意味でも肯定できた瞬間でもあって。

この時に描いたものだったり、私が感じたこともそうなんですけれども。今のこの時代の文化だったり人々の考え方みたいなものが、陶板にのっていると「こんなに素晴らしい高度な知能をもっていた人がこの時代に生きていたんだ」「文化がこんなにあったんだ」ということを伝えられるものになるのかもしれないなという思いがあって。

それで今回も1000年後の未来というものを描いて、2019年から1000年後、どういう風にこれが残っていったのかを疑似体験してもらえるような部屋がつくれたらいいなと思って。それをコンセプトに、部屋をつくりました。

ーーこちらの部屋は、503号室「2019」の部屋なんですけど、対になった603号室は1000年後の世界になっている。逆の部屋には1000年前・後の世界がある、と想像しながらご自身の部屋を楽しんで、音声を通して想像いただけれるといいかなと思います。

ーー503号室「2019」の部屋の、描かれている絵の内容について、解説いただければと思います。

ここに何を描くかということは、最後までディレクターさんと一緒に悩んで。

ーーその話し合いが、すごくハードなもので。色んな思いをぶつけているんだろうなと見ていて思いました。

そうですね。対話だけで、すごく時間をかけたんです。603号室の「3019」の部屋とモチーフは共通していて。「四神(ししん)」ですね。4つの神様、青龍・白虎・玄武・朱雀ですね。それをテーマに絵付けをしています。この部屋のテーブル…というか陶板の形は、八角形をしています。これが603号室になると、丸の形になっていたりですとか。モチーフの絵柄も、ここで咲いている花が、枯れていたりとか。つぼみが咲いていたりとか。少しづつそのモチーフが変化して、1000年後を表現しているんです。

1000年後だから、何かが開花したとかというのではなくて。巡り、巡りながら1000年という月日が経っていくんだろうと思うので。時間軸みたいなものはありつつも、1000年の間に「これがこうなった」だけじゃなくて、ずっとずっと繰り返しがありながらその中の一瞬を切り取られているのかのかなという風に想像していただけるといいかなと思います。

ーー未来ということを想像するときに、1000年という単位は、なかなか一般の人からは出てこないと思うんですよ。おじいちゃん、おばあちゃんを凌駕してる。わかりやすい0から100への変化ではなくて、輪廻みたいなもの、繰り返しながらも変わらずに在るものをイメージしながら、この部屋の対比をつくっていっているという。広いというより、深いという世界観で楽しむ部屋なのかなと、お話を伺いながら感じました。

ーー後ろのオブジェは、何と呼べばいいんでしょうか?

これは何かを入れる…一つの器ですね。何を入れるものかは、そこまで想定していないんですけれど。器というのは、何かを入れるものなので。時間軸で捉えると、一つの記憶が入っているみたいに感じてこの形になっています。絵柄は私もよくモチーフとして用いるんですが、「吉祥文」といわれる日本の伝統文様。それも「青海波」といって、波がどんどん続いていくものだったり、永遠を表しているものが多いんですね。そういうものを丸紋でちりばめながら…

ーー丸い紋の中に「永遠」を表すモチーフをちりばめていった。

そうしながら、全体的には「唐草紋様」。唐草も実は永遠につながっていくという表現なので、永遠の時間をイメージした文様で全体的に絵付けをしているんですけれども。

ーーこちらは触れない展示になっているんですよね。できる限り、いろんな面を見ていただければいいなと思いますね。顔をあっちこっちに動かしながら。

細かい曲線の集合体で描かれているパーツもあるんですけれども。これも、フラクタルな構造の絵付けになっていて。というのも、どんどん線が集合していって、それが一つの葉っぱのようにみえるんだけれども、その葉っぱ自体も一つの葉脈の一部分で…みたいな。そういう風なイメージで描いているんです。これも「吉祥紋」。永遠に続いていくような紋、現代の紋として自分がつくったものでもあって。現代の私がつくった文様と吉祥紋などの伝統文様を組み合わせることによって、今と昔がつながるのかなと。

ーーそういう話を聞いてから作品を見ると、小さい世界を描いているのか、とても壮大な大きい世界を描いているのかがわからない。ミクロとマクロのどちらともいえる絵になっているし。シンプルに未来の絵なのか、過去の絵なのかも定義しにくいというか。両方に見えてくる気がしますね。

それはすごくうれしいですね。ミクロの世界と結構、似ているじゃないですか、宇宙の世界と。宇宙も何回か、十を累乗していくと同じ世界があって。細胞も一つの世界、みたいな。

ーーそこと時間という感覚がリンクしてくる部分とかもありますね。

ーー603号室の陶板の作品の解説をお願いいたします。

こちらは「3019」ということで、1000年後の世界をモチーフにつくっているんですけれど描かれているのは、「2019」と同じで四神です。青龍・白虎・玄武・朱雀なんですけれども、503号室よりもメタファー的に、わかりにくい絵柄もあるかもしれません。例えば玄武は、崩れそうなビル群みたいなものを甲羅の代わりに描いていたり。青龍もあえて、顔を出さないようなかたちで描いていたりとか。朱雀は、花が蕾だったものがこの部屋では咲いていて、時間の移り変わりが見えたり。白虎もすこし文様の中に顔が隠れているような描き方をしていて、蝶々が今から飛ぶようなイメージでつくっていて。少しづつ変化を持たせて描いています。

ーーこっちの絵の方がよりメタファー的だとおっしゃいましたが、もう一つの部屋との対比がなければ、風景的に見えるような絵になっていますね。

陶板の形状を603号室では、丸い形にしているんですね。1000年経って、角が落ちたというイメージもつけつつ、部屋自体の色が503号室は黒、603号室は白なので、全体の感覚が全然違うと思うんですけれども。何というか…難しいですけれども、自分の生活だったり、日常的なものが…形而上的なものに、昇華されたみたいな。そういうイメージがつくといいなという思いでつくっています。

ーー空間はミニマルに、余計な要素を省いて。心がぽつんとこの部屋の中にいるようなイメージの中に、照明と陶板と後ろの器が浮きたってみえるようなつくりになっていますね。

ーー絵について、もう少し伺いたいのですが。日本の昔からの屏風とか浮世絵のような表面性と、そこからつながる現代の漫画などのようなデフォルメした絵でもあると思うんですが。モチーフの描き方に対するこだわりとか、大事にしている部分はもありますか?

たしかに二次元的な描き方というのは、線自体を大事にしたいという思いがあるので。どちらかというと立体的ではない描き方をしているんです…とは言いつつ、よく見ていただくと釉薬をぽこっと盛り上がるように、何度も焼き付けて立体的に見えるようになっています。二次元なんだけれども、そこに「命があるように」という風なイメージでつくっています。

ーーこの色は陶板ならでは、釉薬ならでは、なんですか?

そうですね。

ーー奥行きというか、不確かさというものが。画像としては平面的だけど、色がつくと有機的で奥行きを感じるという。伝わってきますね。

特に釉薬というのは、赤と白を混ぜて、ピンクにならないので。一回一回の実験の中で、例えば焦げてしまった色があるとしたらある意味、茶色の色をつくる技法を手に入れたみたいな。日々日々、レシピをつくりながら釉薬の色をつくっているんですけど。日本の色の調和って、着物もそうなんですけど絶対に合う調和みたいな。不協和音のない調和をしつつ、どこかピンポイントに不協和音を入れていくという風にすると、何かこう、生きている感じがしたり、リアルな感じがしてきたりということがあって。生き物とか植物を描くことが多いので、その時はちょっと不協和音な色をとなりに合わせてみたり。そこは工夫しているところですね。

ーー円形ですし、抽象的なモチーフの描き方をしている部分も相まって。ぐるぐると視線が、戻ってきたときには、違うものが見えるという楽しみ方ができる陶板になっていると思います。釉薬は扱いが難しいもの、という印象があるんですが、その中で色鮮やかに描くということは、一般的にも行われるものなんですか?

器でしたら、あまり多くない窯の回数で仕上げるというのが、一つのやり方であるんですよね。なぜなら窯に入れるというのは、リスクがあることなので。なるべくリスクがないようにつくるというのが、当たり前のやり方なんですけど。ただこの陶板画だと、だいたい10回ぐらい窯に入れています。そういう意味では本当にハイリスクなんです。釉薬のうえに、また釉薬を乗せると下の釉薬がちょっと溶けたりするんですよ。そうすると微妙なにじみ方ができたりとか。下と上の釉薬だけじゃなくて、釉薬の中の滞留するような粉の出方っていうのが、私自身が把握できないような見え方をしたりするので、そこは一番楽しいところですね。

ーー陶板の後ろにある器について、503号室との対比を解説いただけますか。

503号室「2019」にある器と同じ形の器ですね、壺というべきなのか。ご覧の通り、一度叩き割って、漆で継いでいる作品になるんですけれども。1000年後の世界ということもあって、「どういう風にこの器が人生を送ってきたのだろう」というのを想像、空想しながらつくったんですね、もちろんこれは1000年後ではなくて、つくったものを叩き割って、時代を付けてるっていうことなんですけれども。この作品は日置 美緒(へき みお)さんという、漆の作家さんにご協力いただいて金継ぎをしています。

ーー叩き割った器を漆でつないで、金を。それが金継ぎというものでしょうか。金継ぎは、どういう文化というか背景のあるものなんでしょうか?

そうですね。金継ぎって割れたものを継いでいるので。

ーーそれが金継ぎ。

継ぎ方も漆で継ぐものだったり、ホッチキスみたいな、楔みたいなものを打ち込んで使うような、継ぎ方って色々あるんですけども。割れたものは、作品として価値がないものという風にみなされる場所もあると思うんですが、日本の中では「割れて継ぎ直したところに風情がある」というような美意識のもとに、一つの文化としてつくりあげられてきたものだと思います。昔のものが金継ぎされているので、破片自体もそれぞれに風化していて、ちゃんと継ぎ合わせないものなんですけれど。これは磁器なのでガラスのようにきれいに割れてしまうので、普通に継いでしまうと、継いだ線がすごく細くなっちゃうんですね。

ーーぴったり合っちゃうからこそ。

それだと風情がないということで。技術的な話なんですけれども、割った後に鉋(かんな)で研いで、割れ目を大きくして継ぎ直していたり。間の抜け落ちている部分の断面が見えているところも、真っ白じゃなくて少し時代を付けるような感じで色をつけたりしながら。


ーー器のような、立体的な造形物の鑑賞のガイドというか。その楽しみ方が、平面的な絵よりもどうとらえていいか、わからない部分があるんですよね。

そうですね。今回は、触れない設定で部屋に置かせていただいているんですが。例えば、抹茶のお茶碗でいうと、「使える美術品」なんですよね。そうすると、その重さだったり、まわして見たときの変化だったり、器の中側の部分、「見込み」っていうんですけれども、どんな風に形作られているか。すごく日本的だと思うんですが、裏の高台部分にどんな風な面白さがあるかというものを含めて、わりと見どころのあるものだったりするんですね。

この部屋の作品は触っていただく設定ではないので、重さとかはわからないんですけれど。ちょっと斜めから覗き込んでいただくと、中のイメージも見えます。これはゴールドなので、何かが映しだされたりするっていうのも含めて、楽しんでもらえたらと思っています。

ーー京都の生まれ育ちで、今の仕事につながる家系に育ったということなんですが。まずは京都にどんな印象をもっているのかお伺いしたいです。

京都生まれ、京都育ちということで、京都のディープなところ、大変なところ、美しいところだったり、文化があったり、歴史があったりというところも、見てきながら育ってきたので。一言では語れないような場所でもあるんですけれども。ここに歴史と技術があるという、間違いなくそういうものもあって。でもそれは一朝一夕に誰かが集まってできたというより、都があって、色んな人がここの中で一つの人生をクリエイトしていった、誰かが文化をつないでいこうとしてきた。そういうことの結集で、今の京都があるので。そういう意味では他府県と、なかなか比べられない、重いものを持っている場所かなと思います。

私は伝統的な家に生まれたんですけれども、京都自体がもっともっと革新的であってほしいなと思っている一人であって。こうやって新しいスタイルのホテルが、京都にできたり。あとは「伝統と革新」だったりテクノロジーみたいなものとコラボレーションがおきて、京都の伝統だったり、昔から引き継いできたものが、もう一皮向けたものになってほしいなということをすごく、思っているので。革新を絶えず、やめないこと。これまでやってきたことを大切に、もっとオープンな京都になっていったらいいなと思います。

ーーこの部屋に宿泊されたゲストの方へ、メッセージをお願いします。

この部屋に宿泊いただいて、ありがとうございます。紹介文にもあったように「時間を浮遊する作品」としてこの部屋をつくりました。この一泊二泊の、一瞬の時間を本当に大事に楽しんでいただきながら、ここに一つの記憶を残していってもらえるような、もう一つの記憶を持って帰ってもらえるような時間を過ごしていただけたらと思います。

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