「10年先の未来を生きるアートコレクターの隠れ家」。そんなコンセプトのこの部屋は、未来のアートファンのために設計されたもの。今日この部屋を訪れたあなたは、幸運にも鍵を借りてこの部屋を訪れた、アートコレクターの知人という設定だ。そのつもりで、この部屋での時間を過ごしてほしい。

部屋の中の一部の作品は、直接触れて、飾り方を変えることもできる。自分の部屋のように作品を飾り変えて、様々な角度から作品を見て、思いを巡らせ、楽しんでいただきたい。また、部屋の中に飾られる作品は全て購入可能でもある。作品はオークション形式によって販売され、宿泊者のみが入札することができる。滞在中に作品を見定めていただき、その価値を自分の判断で決めていただきたい。

この部屋は他のアートルームとは異なり、6ヶ月毎にディレクターやアーティスト、テーマや作品が入れ替わる。そうすることで、継続的に京都を中心とした新しいアートシーンと関わり続けることを目的としている。

ーーBnA「vault」として展開する703・803号室の部屋についてのガイドになります。この部屋は固定のアーティストが作品をつくる形ではなく、「未来を生きるアートコレクターのコレクションルーム」というコンセプトで部屋をつくりました。ディレクターである僕、大黒健嗣と、空間のコンセプト・設計・制作していただいた「SUMAR WORKS」の相澤 澄雄(あいざわ すみお)さんの対談をお届けします。

ーーまずは、自己紹介をお願いします。

「SUMAR WORKS」っていう、インテリア・商業建築の会社をやっています。初めのうちは、お店という形態が多かったんですけど、後から今までないようなものをつくっていくとか、構造も考えながら新しいものを生みだしていく案件が増えてきて。元々は建築なんですけど、ジュエリーをやったり、アパレルブランドをやったりしていたので、今はデザインも含めた総合的なものづくりに関わるようなことをやっています。

ーーもともとBnAの拠点である高円寺にSUMAR WORKSが拠点を構えていて、僕たちは自然と知り合いになって。このプロジェクトだけじゃなく、以前、取組んだ秋葉原のプロジェクト「BnA STUDIO Akihabara」
から関わっていただいています。

ーーBnAのプロジェクトって課題が独特なんですが。アーティストの作品空間に対する関わり方について、どのように感じてコラボレーションしていただいているのでしょうか?

うちの場合は、アーティストとしての活動はあまり重視していなくて。

ーー相澤さんご自身が?

そうです。「アーティストとして作っています」という感覚は正直、自分の中では強くなくて。表現者であること、自分のオリジナリティという部分では感じているんですけど。

BnAとの関わり方としては、もともと自分がやっていたことに近いというか。商業建築を手がける上で、常にうちが考えているのは、クライアントというかお客様の想像しているもの、または想像しきれない一歩先をこちらが歩み寄って模索しながら、形に落とし込んでいく。もともとそんなことをやっているので。そういう意味でいえば、特殊ではあるんですけど。むしろ向いてるというか。こっち側も楽しめるし。アーティストは想像をいっぱい持っている人たちなんで、そこに技術のサポートに入る。ただ、デザインとかアートを加味した上で技術サポートに入るのか、単に技術的なサポートだけするのか。そこは違うと思っているので…というような関わり方ですかね。

ーー秋葉原の時はアーティストにつくりたいコンセプトがあって、それを具現化していくという形でした。アーティストがアウトプットの最後まで、自身でつくって納品までやるという中で、「それを実現するならこういう方法がいい」と提案してもらえました。他にはない、SUMAR WORKSならではのアーティストとの関り方。単に図面を渡して施工してもらうのとは、全然違うアプローチ。

ーー今回の「vault」という空間に関しては、作家が不在の状態。なので、僕らBnA側がつくったコンセプトをどう実現しようか、最初の段階から相澤さんに相談に乗ってもらいながら部屋をつくったといういきさつがあります。

ーー部屋のコンセプトは「2030年の未来を生きるアートコレクターのコレクションルーム」というテーマがあって。ストーリーとしては、知り合いのコレクターの部屋を1日借りて泊まったら、アート作品が部屋の中に陳列、保管されていたっていう、部屋に偶然的立ち会うというストーリーを描いています。このコンセプトに関しては、最初にどんな印象を受けましたか?

BnAっぽいなと。当初打ち合わせで話したのは、「アートコレクターを具体的にイメージ化していくのが正解なのか」「もうちょっと抽象的にする方がいいのか」ということから…

ーーコレクターの人格をより明確的に、キャラクター設定するのか。

ペルソナを明確にするのか、あえてそこもわかりづらくした方がいいのかとかということから考えて。その中から自分の美的な、デザイン的なものと、頭の中で整合しながら、イメージがどれなら湧くかなと。

ーー空間のイメージを「ここにこれがあって」と、概要設計したものを渡して。それに対して、「ここは間引こう」「ここは活かそう」「ここはやり方を変えよう」というやり取りで進めていったんですが。特徴になっているのは、壁が鉄板であることですよね。2030年という未来的な空間である、というテーマもリンクしているのかなと思っているのですが。

壁を全部鉄板にして、ネオジウムっていう強力なマグネットを使って稼働できる仕組み自体は、今までにうちがやった案件の中でやってるんです。それが頭の中にあって。今回のキーワードとして頭の中にあったのは「未来感」。2030年というのは人が想像する未来だろうし。その未来感というのをどこに想定するかと。その中でわかりやすい未来ということは、あの部屋を設計する上でのキーワードだった。あとは作家が決まっていないということだよね。常に変わる、そこをどう落とし込むかと。

ーー入れ替わりの際のスムーズさとか、自由度みたいなことですよね。

あともう一つあったのが「作家を刺激する」というキーワード。こういうのがあるなら、こんなことできるかもって。どうやったら作家の創造性をより、膨らませられるかと。

ーー他のギャラリーは、ニュートラルにホワイトキューブにして自由に投影できるキャンバスなんですけど。ここはホテルの部屋として機能しなければならない上で、ニュートラルな空間+α、何か入れなければならないので。ならば、そこをとっかかりにしていこうというアプローチがあったということですよね。それが結果的にオリジナリティとしてついてきているんだと思います。

ーー今後、どんなコレクション(作品)の入居を期待していますか。

先ほどアーティストではないと言いましたが、この部屋も僕の作品の一個ではあることに間違いなくて。今、自分の働く中で思っているのが「想像外のこと」が面白いなと思っていて。

ーー自分が想定している以外のもの、以上のものっていう。

俺の中でのキーポイントが「余白」。自分が今、デザインしているものに関しては、人が介入する余地だったり、気持ちの介入する余地だったり、参加する余地だったり。多方面において、そういう意識があって。その中で、想像してないことが起こることが理想。その中で得るものがあることが理想だなと。手がけた本人だから「この機能を使ったらこんなことができるよ」とか、「こういう風にしてみたらどう?」って聞かれれば答えられるんだけど。アーティストによって「こんな風に使うんだ」とか、「こんな風に変化するんだ」というものを見たい。…というのが理想かもしれない。

ーー設計の部分でもいいし、体験全体としてでもいいんですが。ガイドになるような解説はありますか?

設計する上で意識したのは、宿泊施設だっていうこと。商業施設全般を手がけているので、ただ単に奇抜であればいい、ないものさえあればいいというところでつくった訳ではなくて。どうやっても自分の職業上、入ってきてしまう。ホテルとしての体をどうとるか、滞在したときにどこにいると心地いいかということを意識して考えていたので。狭い部屋なんですが、ポイントで眺める場所を意識していて。ベッドに寝ながら見たビュー、入ってきたときに目に入ってくるものであったり。

あとは、小物はすべてオリジナルでつくっています。ハンガーをかけるものとかベッド自体もオリジナルでつくっていて、イス以外すべてのものがオリジナルプロダクトなので、その辺りも。アートとは違う観点ですが、ディテールだったり素材感も楽しんでもらえるかなと。

ーー泊まっているゲストにメッセージをお願いします。

今泊まっている人が部屋にいるときに、どんな作品が部屋にあるのか想像できない。作家は常に変わっているので、どんな感覚かはわからないですけど。2回目に泊まることがあれば、作品は入れ替わるので、作家がもつ空気間によって空間が変わることを体感して貰えるのかなと。壁が変わることもなく、ベッドが変わることもなく、家具も変わっていないけど、感覚がどう変化するかというようなことが楽しめると思うので、ぜひ2回ぐらいは泊ってもらうと面白いのかなと。

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