鳥のさえずり、雨の降る音、波のざわめき…。9つの音楽があなたの身体を、心を包み込む。

この部屋は、アーティストのAOKI takamasaが作った音響作品を存分に楽しんでもらうための空間。彼は、国内の様々な場所の環境音とスタジオで録音した電子音や楽器の音をレコーディングし、このアートルームでしか聞くことのできない音を制作した。

ぜひベッドの上で寝転びながら、その音に身を委ねてみてほしい。ちょうどベッドの中心が最も立体音響を楽しめるスポットになっている。4つのスピーカーと1つのウーファーによる、かつて味わったことのない極上の音響体験になるだろう。日本各地の自然の音をフィールドレコーディングしたものと、それと重なるように制作した音楽から、あなたの好きなものを選んでほしい。音と共にその時間を過ごすことで、身体はこの場所にありながらも、心はここではないどこかへと旅することができるだろう。

緻密に音を作り上げ、聴く者の内なる感情を刺激するアーティスト・AOKI takamasa。ここからは彼が音へ込めたメッセージを聞いていきたいと思う。

ーー自己紹介をお願いします。

AOKI takamasa(アオキタカマサ)と申します。主にミュージシャンとして活動をしているんですけど、写真を撮ったり、インスタレーション的な作品を過去につくったことがありまして。今もずっとDJをしたり、ライブパフォーマンスしたり、音楽をつくったり、写真撮りながら活動しているものです。

ーー解説するとしたら、どういう音楽をつくっていらっしゃるのですか?

過去と今はスタイルが違うというか、求めているものが違ってくるんですけど。基本的に一貫しているのは、「体感を生む」というところに常に意識を向けています。イヤホンで聞くだけではなくて、肌で空気の振動を感じながらその音場を感じる、体感するというのを基本に。

ーー「おんば」というのは、音の場所と書いて、音場?

そうですね。例えば、森の中にも街の中にも音場が存在するし、クラブにも音場が存在する。クラブは人が踊ってしまう音場やし、街では買い物がしたくなるような音場かもしれない。もしくはストレスを感じるような音場かもしれない。森の中ではリラックスや恐怖があるかもしれない。そういう色んな音場を、いただいた発表の場、その場その場で、それぞれの音場をコントロールしながら作品として発表していけたらなと思っています。

ーー自分でつくった音楽をどういうシーンで、どういう風に聞いてほしいなどを考えたりすることはありますか?

僕の音楽っていうのは…僕は車が好きなんで、レーシングカーで例えさせてもらうと、市販車ではない気がするんですよね。レーシングカーだと、走らせる場所も決まってくる。コマーシャル音楽を市販車として例えると、その市販車は街中で走らせることが目的になっているけど、僕の音楽は街中で走らせると意味がないというか。 信号で毎回止まったりエンジン音で怒られたり、そういうことが起きると思うんです。そういう意味でも、ちょっと特殊であると自分でも認識していまして。その分、聞いた人の感覚も意識も特殊な状態になるといいなという思いがあります。

ーー今回の空間作品について、聞いていきたいと思います。まず、タイトルは?

「TRAVELING ROOM」という名前でつくりました。

ーーどういった作品になりますか?

4つのスピーカーと1つのウーハーによって、4.1のサラウンドがこの部屋の中でつくられていまして。ベッドの枕のある辺りがスイートスポットになっていますので、そっちに寝てくださった方が。ホテルの部屋の中で、僕が録音してきた場所の音場を立体的に体感できるというのが基本の狙いです。

ーーベッドの真ん中が、一番音場が立体的に聞こえるスイートスポットになっているんですね。

本来はひとりで寝ていただくのが、一番理想的なんですけど。ど真ん中が一番いいですね。

ーーどういった音を体験できるんでしょうか?

今収録されている音は和歌山の森の中ですね。風が揺らぐ音、鳥が鳴く音。もう一つが奈良にすごくきれいな清流があるんですけど、そこの川辺でずっと川が流れている音。あとは、和歌山の海辺で波がずっと近くと遠くで波が聞こえながら、文明の音もフェリーであったり飛行機であったり、人の会話も聞こえるような音と。

あとは環境音ではない、自分のアンビエントサウンドが2パターンありまして。その環境音とアンビエントサウンドが混ざったバージョンもあって、色んなバージョンをここで聞いていただくことができます。

ーーどういういきさつで、どういう意図があって、空間をつくろうと思ったのか聞かせてください。

自分はずっと音楽をつくっていまして。ポップスも、ダンスミュージックも、アンビエントミュージックも、ノイズもやって。色々やらせてもらった結果、最終的に人がいきつく究極の音って地球の音であると思ったんです。文明も含めて地球ではあるんですけど、人が経済活動において生みだすものがない状態、あらゆるストレスから解放された状態を、音を通じて音場を感じながら意識する状態になればいいなという思いがずっとありまして。

この部屋のチャンスをいただけて、これをぜひやってみたいという思いがあって。人間が自然の中で感じるリラックスを、ここで疑似体験してもらって。その体験の中から普段感じることのないリラックスの境地、起きてるか寝てるか分からない、半分寝てるような、起きてるような意識状態になってもらうことで、日常生活では感じれないリラックスを体験してもらえたらなというのがメインの狙いですね。

ちょうどこのホテルが出来あがった時は、京都は人の数がすごかった。僕もしばらく京都に住んでいたんで、年々加速する街中の忙しさは体験してたんですけども。そういう街の中で、移動したり観光したりされた方がこの部屋に入って、音がシンとするような環境の中で自然の音を体験しながら、リラックス効果を得てもらえたらなというのがありましたね。

ーーこの部屋に入ると、すっと音が消えて集中できる環境になって。青木さんの音を再生すると、寝てるのか起きてるのかわからない中で直感的というか、思考的ではない情報の受け止め方にフォーカスできるような空間になっています。このホテルでの体験が、内側から鍵をかけて睡眠ができる体験というところなので…

ーー「TRAVELING ROOM」というのは、音で旅を疑似体験できるということですか?

普段、僕たちは視覚情報にどれだけ頼って生きているかということが、大きいと思うんですけど。視覚情報も含めて、トータルなリラックスを生むのは大変な作業でもあります。人間は視覚情報だけじゃなくて、意識的な部分、感覚的な部分が、ものすごく大きく精神に作用する生き物だと思うんですね。

日常のストレスが多い日々の中で、自分だったらどういう状況で一番リラックスできるかなって想像した時、森の中にダブルベッドがあって、何も考えずに寝ていられる、きれいな清流が流れる横で寝ていられる、という状況が僕としてはかなりリラックス出来る状態。実際にダブルベッドを川辺にも、森の中に持っていくことは不可能に近い。でも今の録音・再生技術を使えば、高解像度で立体的な音場をつくることができる。だからこういう「部屋一つが作品」というチャンスをいただけるのであれば、視覚的なバーチャルではなく、空気間で生むバーチャルを生みだしたかった。

目を閉じるだけでその場所にテレポートできる、一瞬でもそこに行けるような体験。位置というものに、人間はどうしても捉われちゃう。瞬時にその場所に行けて、それを体験できて、リラックスも爽快感も生まれて。日頃のストレスからも解放されて、今この瞬間っていう思考から解放される状態になる。ある意味、瞑想ルームですね。瞑想って何か特別な体験が生まれるとか、何かとつながるというんじゃなくて。思考から解放されて、明日の不安や昨日の後悔から一切解放されて。今この瞬間にあるというのが、僕の究極の瞑想状態なんですけど、それを擬似的に体験できるような部屋。そういうのは今の日本人、地球人に求められていることなんじゃないかなと思います。

ーー非常に共感しました。今この瞬間だけに、自分の身を置く。先ほど「視覚的」とおっしゃいましたが、記号的に視覚効果を消費していると思います。視覚を否定するわけではないけど、今という感覚と向き合うには一旦遮断した方がいい。ミニマルにして、音を使って導入していこうという訳ですね。旅の中で、どんな風にこの空間で作品に触れるのか、人ぞれぞれあると思うんですけど。つくっている最中に想定していた人物像はありますか?

垣根をつくらず、どの人種にも、どの年齢にも効くというか、精神・肉体に効く。言語関係なく、問答無用で、特殊な意識状態になれるといいなと思ったので、あんまり特定のオーディエンスを目指したというのはないですね。

照明に関しても無理をお願いして、LEDを一切使わない方向にさせてもらって。人間が認識できないレベルの強烈な点滅が起きているのが、LED照明なんですね。人間のタイムスケールでは点滅に見えないけど。

例えばテレビでスポーツ観戦をした時に、スローモーションの映像を見たときに、電光掲示板が点滅してるのを見たことはありますか?本当はあのスピードで点滅してるけど、人間のタイムスケールではそれを感じられない。でもサブリミナルにはものすごいフラッシュの中で生きてるんですよね、普段はね。それが気づかないストレスというのがものすごくあって。経済活動が優先されることで、人間に苦痛を与えているストレスを無視した状態で、「これがええやろ」と押しつけてることもある。それに気づいてもらいたいし、そのストレスを軽減したいという思いもあって。点滅を生まない光源。実際に電気が発する熱を発しながら発する光ですけど、一番ろうそくに近いというか。それを目指せられたらなと。

ーースピーカーの話、システムについてお伺いしたいのですが。

ここは4.1という、4発のスピーカーと1発のウーハーが入っていまして。それを使って、ダブルベッドの敷地に立体的な音場をつくるということを狙っています。メインのスピーカーが「musikelectronic geithain」というドイツの高性能のモニタースピーカーで、後ろがヤマハのモニタースピーカー。こちらもかなり高性能なものなんですけども。モニタースピーカーというのは、一切の飾りがないというかスピーカー特性がないんですね。ただ録音した再生される音がクオリティーが高いのであれば、高いクオリティを発揮してくれるし。クオリティが低いのであれば、低いクオリティを発揮するだけのもので。純粋に入力された音をきれいに出すというのが目的のスピーカーです。そのスピーカーを4.1というサラウンドで配置しています。

枕のあたりが一番立体的に音が聞こえる環境になっているので、寝転んだ状態で、枕元にあるiPadで、どこかの場所で録音した音か、僕のつくったアンビエントな音を選んでいただいて。再生すると同時にぐーっとゆっくり暗くなって、音がすーっと入ってくるような感じになってきます。1作品につき30分のスパンなので、その30分をループすることもできるし、終わらせることもできる。終わった瞬間に光がふぁっと点くんです。じわっと点くんじゃなくて、点くときはさっと明るくするようにしているんですけど。音もサーっと消えていくんじゃなくて、結構早めに減衰するようにしています。導入の時はスーッとゆっくり入っていくけれども、起きるときはパッと起きれるような。そういう効果も狙ってプログラミングしました。

ーーシンセサイザーで青木さんが組み立てたプログラムなど、音響はどういった感じになっていますか?

基本的にリズムが入ってないアンビエントな音像が多いんですけど。自然環境の音、フィールドレコーディングの音にうまく混じるような、地球の胎動を感じるような音を目指しました。僕は地球がひとつの大きな生き物だと思ってるんですけども。例えば、大黒さんがものすごくミクロな存在になって、僕の表面に付着してたとするじゃないですか。そしたら多分、僕自身の音を地鳴りのように感じると思うんですね。こぉーという心臓の音かもしれないし。地球にも本来それがあって、僕らはただ、地球っていう生き物の表面に付着してる生き物じゃないですか。その地球自体の胎動、ゆっくりなこういう動き。波の音もそうやし、森の音もそうやし、鳥の音もそうやし。

経済活動さえなければ、お金っていうシステムを無視したら、地球の胎動にみんなが同調した音を本来は聞いてるはずやと思います。それを癒しとするし、それを美しいとするし、それを芸術とすると僕は思うんですよね。経済活動活動があるから、お金を生むものを美しいと人間は勘違いしちゃってるけど、本来はそうじゃなくて。母なる地球の胎動を感じるような、それを美しいと思えるような音楽というか、音をつくりましたね。

音楽になってくると、意図が出てくるじゃないですか。ハッピーになってほしいとか、盛り上がってほしいとか。そういうのはなくて。正直、自分の感情がどうのこうの、リスナーの感情がどうのこうのというのはあまり考えていなくて。ヒプノティックな、催眠的な左右の音の揺れであったりとか、100Hzから40Hzくらいの低い重低音をゆっくり揺らしてみたりとか。そういう音楽には聞こえないけれど、大きな胎動を感じれるような音を意識してつくっています。その音だけでも聞いていただけるんですけど、その音と自然のフィールドレコーディングが合わさった時の音も、面白い音になっていると思っているので。それを体感してもらえたらなと思います。

ーーここに泊まられるゲストに、メッセージを残していただければと思います。

何度もお伝えしているように、この部屋は「地球の胎動と同調してもらえたらなぁ」という思いがあってつくった部屋なので、泊まっていただいて、ここでなるべく多くの時間を過ごしていただいて、自然と同調してもらって。自分の内に潜む、本来自然と同調している胎動を思い出してもらって。それを軸に活動していただけるような、そういう場にしていただきたいなと思いがありますので、ぜひ、そういう視点で体験していただけたらなと思っています。

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