箱根の山は活火山。大涌谷では24時間、噴気孔から火山ガスが噴き出している。この音は、特別に火山ガスに地下水を混ぜて温泉をつくる蒸気井(じょうきせい)で録音させてもらった音だ。
大涌谷は、江戸時代まで「大地獄」と呼ばれていた。白と緑が混ざったような、異様な山肌。あちこちから立ち昇る、臭くて白い噴気。周辺は赤茶け、植物や生き物の気配もない。あまりに荒涼としたその風景は、確かに異世界。
大地獄から大涌谷に名前が変わったのは、明治に入ってから。明治天皇が箱根にきた時に、「天皇が訪れる場に、地獄の名はふさわしくない」と改められたそう。
箱根の山は40万年以上前から噴火を繰り返しており、過去8000年の間に、少なくとも8回噴火したとされる。約3000年前には、箱根で一番高い山「神山」の北西側が大噴火して、大きくえぐれた。その噴火口の跡があるのが大涌谷で、今も100度を超える高温の火山ガスを噴き出す噴気孔がいくつもある。
この高温の蒸気を有効利用しようと設立されたのが、箱根温泉供給株式会社。この会社は、大涌谷まで高低差350メートル、総延長2600メートルのパイプを通し、仙石原の湿原からくみ上げた井戸水を大涌谷の蒸気にかけることで、温泉を作っている。
そして、お湯を送るパイプを敷いて、大涌谷一帯の旅館に温泉の供給を始めた。パイプの距離は、14500メートルにも及んだという。もともと自然に湧いてくる温泉が少なかった仙石原は、この造成温泉によって箱根を代表する温泉地となった。ちなみに、火山のガスの成分を取り入れた酸性のお湯は金属を溶かしてしまうため、当初、お湯を送るパイプは松の木をくりぬいたものが使われていて、水漏れで苦労したそう。
お湯を送るパイプは、硫黄や湯の花がすぐに付着する。大涌谷では、防毒マスクをつけた作業員が、毎日、除去作業、清掃作業をして、仙石原、強羅の温泉を支えているのだ。