130年前のオルゴールから流れる音色は、現代でも聞く人の胸に響くようだ。
富士屋ホテルの向かい側にある、カフェ・ド・モトナミ。この建物は大正時代、1階がバスの待合所、2階が喫茶店として使われていた。
長い年月を経てその面影は失われていたが、現在のオーナーが2002年にカフェを開く時、明治時代の創業で、現在も同じ宮ノ下で営業を続ける嶋写真店で、大正時代の写真を発見。外観をリニューアルする際、「この通りにしてほしい」と、当時のデザインを再現した。
カフェ・ド・モトナミの2階に置かれているのは、130年ほど前に作られた大きなオルゴール。オーナーがオークションで落としたもので、もともとスコットランドの小さなホテルにあったものだという。シンフォニオン社というドイツのメーカーのもので、コインを入れると曲が流れるジュークボックスのような作りになっているのだが、アンティークなのでドイツの貨幣以外では動かない。
カフェには30曲ほどのディスクがあり、お客さんからリクエストがあると、オルゴールの扉を開いてディスクを入れる。その音色はとても優しく、どこか懐かしさを感じさせるもので、『アベマリア』を流した時には、涙を浮かべながら聞き入っているお客さんもいたという。
不思議なことに、箱根ラリック美術館、富士屋ホテルにも見た目がそっくりなオルゴールがあるが、それぞれ特につながりはないそうだ。
どういうわけか、100年以上前にドイツで作られたオルゴールが、箱根という小さな町に3つもある。単なる偶然だとしても、それぞれの場所で、この素朴な音色に耳を澄まし、心動かされている人がいるのだろう。きっとそれは、箱根の思い出のBGMになっている。