湯本温泉は、もともと熊野神社下から湧出する唯一の源泉を利用して成立した温泉場で、江戸時代に約二十軒を数えたその集落は「湯場」と呼ばれ、早川と須雲川が合流する湯坂山のふもとの狭い場所に位置していた。
明治時代になると、道路整備や鉄道開通で東京からのアクセスが良くなり、箱根温泉の玄関口ともなる湯本温泉には多くの観光客が訪れ、たいへんな賑わいを見せるようになった。さまざまな店ができ、また岩崎家の広大な別荘も建てられるなど、集落の様子も大きく代わっていった。
さらに明治24年、東京の実業家が須雲川沿いに「滝の前遊園」を開き、湯本温泉から須雲川に沿ってこの遊園を結ぶ道が新たに整備された。「滝通り」と呼ばれたこの道路沿いにはやがて実業家らの別荘が建ち並び、さらにその先では新たな源泉の開発によって旅館が開業するなど、湯本温泉は次第に須雲川沿いへと拡大していった。