今では、誰もが知っている御朱印帳。
ちょっと前までは、神社仏閣巡りをするお年寄りや神社仏閣巡りが身近な層のみが使うものだった。
当然、その柄も古典的なものばかり。
でも、いっそのこと、これまでの技法はそのままに、まったく新しいデザインを取り入れたらどうなるだろう?
そんな学生のアイデアから、奇想天外なノートが生まれた。
伝統のものと新しいものとが混じり合う魅力。
サイケデリックな見た目に惹かれて、思わず手に取ってみたくなる。

伝統の柄が学生のアイデアで大転換

光織物は、掛け軸の周りを彩る表装裂地(ひょうそうきれじ)や、ひな人形などに使われる金襴緞子(きんらんどんす)を専門に織っている。金色の糸を使ったきらびやかな文様が特徴だ。掛け軸の表装裂地には「貴船緞子(きふねどんす)」という商標を約20年前から設けている。最盛期には掛け軸の生産量が多く、それだけで月に一千万円を超える売上があったと加々美好さんは話す。しかし、家庭の生活様式は変わり、床の間のある家は少なくなった。今でも書道展などでは需要があるが、掛け軸はすっかり嗜好品になってしまった。

生き残るには新しい風を取り入れることが必要だ。好さんの息子の琢也さんは、この町で展示会などのディレクションをしていた東京造形大学の教授、鈴木マサル先生に「学生とコラボできないか」と持ちかけた。当初、鈴木マサル先生は産学連携に反対だった。学生は卒業制作代わりに自分本位のデザインをし、工場は補助金でそれを作っておしまい。未来に繋がらない産学連携に意味はない。しかし最終的には、琢也さんの熱意に押されてか、これまでにない産学コラボが実現する。それが2009年にスタートした「フジヤマテキスタイルプロジェクト」だ。

鈴木マサル先生によるルールは2つ。ひとつは、「学生は、ハタヤに利益がでるように売れるデザインを考えること」。もうひとつは、「ハタヤは、学生のアイデアに決してNoと言わないこと」。両者が本気の勝負をすることで、産地に新たなファクトリーブランドが次々に誕生した。光織物のオリジナルブランド「kichijitsu」は、そうしたフジヤマテキスタイルプロジェクトの第3期に生み出されたものだ。

2011年当時、旅行や縁結びの神社巡りで御朱印を集めるのが若い世代にも少しずつ流行り始めていた。それに目をつけた学生デザイナーは、これまでにはないポップな色で、ノートとしての使用も提案した、御朱印帳改め「GOSHUINノート」を考え出した。ビビットな蛍光色にキッチュな柄。好さんは「絶対売れないよ!」と初めは思ったそうだ。しかし、ギフトショーなどの展示会に出してみると、お客さんが次々に飛びつく。ついには大ヒット商品となったのだ。

伝統的な金襴緞子と、新たなブランド「kichijitsu」に共通するのは、金色の糸を使っていること。この糸の芯になっているのはポリ塩化ビニルで、平べったい板状をしている。そこに金の色をつけたアルミがのせられているのだ。板状なので、織るときによれてしまうと、金ではなく黒く見えてしまう。光織物では、平たい糸をよれずに織る技術が発達している。さらに高級な生地を織るときには、和紙を芯にし、本物の金をのせたものを糸として使う。この糸は手機(てばた)でなければ織れず、今では京都の西陣にわずかに残るのみだ。西陣で生まれ、桐生や山梨に伝わった金襴緞子は、今では桐生や山梨でしか量産されなくなった。西陣では、手機で織るような高級なものでないと採算が取れなくなってしまったのだ。ちなみに、光織物という名前の由来は、きらきら光る糸を使うから……ではなく、好さんの叔父にある先代の「光雄」という名前によるものだそうだ。

第三土曜日は、オープンファクトリーとして金襴緞子を織っている工場を見学できる。それ以外の日でも、金蘭緞子を使った御朱印帳づくりのワークショップは、予約をすれば随時体験可能だ(2,500円)。伝統的な柄と、学生コラボによって生まれた新しい柄の両方を手に取って、それぞれの良さを比べてみて欲しい。

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