ハタヤ巡りをするなら、その間にぜひ味わっていただきたい郷土料理がある。それが「吉田のうどん」だ。実は、うどんと機織りには深い関係がある。古くから、機織り工場の担い手は女性だった。彼女たちがお昼の準備をすると、機織りの手が止まってしまう。それを防ぐため、この町では男性がまかないとしてうどんを打った。そのせいだろうか、吉田のうどんはとてもコシが強く、歯ごたえがあって男性的だ。
都会から織物を買い付けに来る問屋にうどんを出すようになると、これがたちまち人気となる。機織りのかたわらにうどんで商売をする家も増え始めた。まかないの延長で営業していた名残で、今でもお昼だけに開店するうどん屋が多い。その数なんと、富士吉田市内に50軒以上! 昔のままに、自宅をそのまま店舗として解放しているところもある。店によって違いはあるが、キャベツや馬肉がのっているのが定番だ。ゴマ、山椒、唐辛子などからつくられる「すりだね」という薬味は、それぞれの店でこだわって調合されているので、食べ比べてみるのも楽しい。
お店では手頃な価格で食べられるうどんだが、もともとは特別な日に食べる「ハレ」の食事だった。農作物の育てにくいこの地域では、穀類は貴重品だ。しかも、こねればすぐに作れる「ほうとう」とは違い、うどんは一晩寝かせなくてはいけない。今でもこの町では、結婚式の最後にうどんを食べる風習がある。うどんのようにコシが強く、末永い新郎新婦の結婚生活を祈るという意味もあるようだ。
さあ、腹持ちのよいうどんでお腹を満たしたら、また次の「生き甲斐」に会いに行こう。
ON THE TRIP 編集部
企画:志賀章人
文章:野原海明(01〜06,11,12) ウィルソン麻菜(07〜10)
写真:本間寛
※このガイドは、取材や資料に基づいて作っていますが、ぼくたち ON THE TRIP の解釈も含まれています。専門家により諸説が異なる場合がありますが、真実は自らの旅で発見してください。