「ありがっさまりょーた」は「ありがとう」。ただし、これは本土の影響を受けた新しい言葉で、昔ながらの島言葉ではない。では、どんな言葉を使っていたのかといえば「おぼこりどありょうた」。「おぼこり」とは「思召し賜ったことを誇りに思います」というような意味があり、これもまた奄美らしい慎み深い言葉といえるのかもしれない。
ここは、ぜひ「おぼこりどありょうた」を使ってみてほしい。というのも、その言葉の意味するところを実感できるのが隈元商店。「サキコおば」と「ミコおば」が切り盛りしている小さな商店なのだが、店の奥には「結らい」の場がある。「結らい」とは、集落の人たちが自然に寄り集まってお茶会をすること。あなたも誘われるがままに「結らい」に参加してみてほしい。もしかすると、お茶やコーヒー、黒砂糖やたんかんなどを次々とご馳走になってしまうかもしれない。そのときこそ、まさに「おぼこりどありょうた」。思召し賜ったことを誇りに思いながら、自然にその言葉を口にできるはずだ。
そうして「おぼこり」の気持ちを実感したら、サキコおばが毎朝手作りしている「モチ」や、ミコおばがいちばん美味しいと評する「ミキ」。奄美の特産品である豚味噌をサキコおばがササミを使ってアレンジした「ミソ」もまた東京から買い付ける人がいるほど人気らしいので、ぜひ買って帰るとよいだろう。
秋名には「隈元商店」のほかに「かつじ商店」「重田商店」「山田商店」もある。それぞれの商店をめぐりながら集落を散歩したら、お酒やおつまみを持って海岸に繰り出そう。
〜秋名こぼれ話〜
ぼくが訪れたのは2月。隈元商店の「結らい」では桜の花見の話題でもちきりだった。気温があたたかい奄美では2月にヒカンザクラが咲く。秋名の外れにある桜並木は夜のライトアップもおこなわれ、島中から人々が花見に訪れる。ヒカンザクラの鮮やかなピンクはソメイヨシノとは風情が異なるが、奄美の人にとってはソメイヨシノのほうこそ色が薄くてパッとしないと口をそろえるのがおもしろいところだ。
それにしても、年配の方たちが「結らい」をはじめると、本物の島言葉の応酬で何を話しているのか全くわからないほど。しかし、どういう意味かを聞いてみると、びっくりするぐらい訛りのない標準語で翻訳してくれる。それも、沖縄や鹿児島本土の人より、きれいな標準語を話すのだからびっくりする。