あなたは旅人。今あなたが立つのは極寒の地だ。上空から見ると、まるで氷の帽子を被ったように、大地はすっぽりと氷に覆われている。その氷の大地に建てられたイグルー、つまり雪のブロックを積み上げてつくられた簡易的な住居を指す。今宵、あなたはこのイグルーに泊まるのだ。今はしばし、東京にいるということを忘れてほしい。ここは旅人のあなたが街の喧騒から離れ、旅のイマジネーションに浸るために用意された空間なのだから。
しかしこの部屋を手がけたアーティスト・上山悠二(かみやま・ゆうじ)は、北国に足を運んだことはないのだという。ここに広がる世界は、現実世界の雪国を表したのではない。あくまでも、アーティストのイマジネーションの中に存在する氷帽の世界なのだ。
床全面は樹脂で覆われ、凍りつく大地となり、白と透明な素材で統一された空間が、氷の世界を演出している。透明なパイプのフレームで表現されたイグルーは、囲い込まれることで、より別世界への隔離された感覚を生み出す。
日常生活から光に対する強いこだわりを持つ上山が、もっとも重きを置いたのはこの部屋の照明。柔らかい光と尖った光を混ぜ合わせ、氷の世界を表現している。この世界に身を置いていると、肌寒さを感じないだろうか。はたまた、やわらかな雪の中に包まれているような居心地の良さも感じる人もいるかもしれない。
この旅でもっとも大切なのは、あなたのイマジネーション。今宵はあなたのイマジネーションを開き、この世界に身を委ねてほしい。そうすれば、あなたは雪原にぽつんと佇む世界の中で、美しく静かな時間を過ごすことができるだろう。