表から見ると三階があるように見えないのに、裏から見ると不思議な三階の窓がある。建物の中に入ってみると押入れの中に階段があったりして、どうも三階は隠された部屋であるようだ。
実は、糸川からこちら側はかつての赤線地帯。およそ70軒、700人の女たちが働いていたといわれ、裏の都市計画として、すべての建物がつながっていた。屋根に出られる扉もあり、逃走経路も完備されていたとか。
とはいえ、熱海の町は狭いので噂がまわるのも早い。客からすれば、遊郭に行くには糸川をこえていかねばならない。しかし、橋を渡っていくと「アノ人が風俗に行ったゾ」というのが丸見えである。そのため、わざわざ縄梯子で隠密に渡っていく猛者もいたとか。
現在はすっかり浄化されているが、わずかに残るカフェー建築の佇まいから当時の余韻がしのばれる。