戸隠に「天狗の爪」や「竜の骨」がある理由

戸隠に信仰が生まれるよりもずっと昔。500万年前、このあたりには海が広がっていた。その証拠となるのが、周辺から出土した化石。ホタテガイやアワビ、ホホジロザメやクジラなど、海の生物の化石がたくさん見つかっている。

昔の人からしてみれば、山に囲まれた戸隠から海の生物の化石が出てくるなんて理解を超えていたはずだ。彼らはその不思議なものを、伝説の生き物の体の一部だと考えた。たとえば「天狗の爪」と伝わっていたものがサメの歯の化石だったり、「竜の骨」だと伝わっていたものがはるか昔に絶滅したゾウの化石だったりする。

中でも「竜の骨」は、削って口にすれば特殊な薬効が得られると考えられていた。戸隠神社の中社の宝物館には、「牙笏」という所蔵品がある。象の牙でできた笏なのだが、下部が少し削られている。これは、この笏が漢方に用いられる素材でできていると信じられていた時代に、削って飲んだ人がいたからだという。こうしたことも、一種の信仰といえるのかもしれない。

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