月は寒々とした池面を照らして、本当の姿をうつしあらわしている。空は少しの塵もなく澄みわたっている。池底の玉のように姿を写しているが、手でその滑らかな光をすくうことはできない。波がたてば、その姿は砕けて数丈にも広がり、龍の鱗が躍動するようだ──その昔、興福寺のお坊さんが猿沢池について残した言葉であるが、さざ波に跳ね返る月光を竜の鱗と表現していることが印象的だ。あなたの目にはどんなふうにうつるのか、月夜の晩にこの部屋の窓から確かめてみてほしい。

額の中にあるこの作品は、何枚も書き重ねたうちの一枚。ときには最初の一枚でできることがあるが、たいていは書いていくうちにできてくる。作者はこの一枚ができるまでに、50枚は書いたという。言葉の意味とは別に、どんな意思を感じるか。あなたが感じたことを大切にしてほしい。

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