みなさん、こんにちは。絵師の村林由貴です。これから、2011年の春からスタートした「退蔵院方丈襖絵プロジェクト」についてお話しします。私のガイドとともに、襖絵を見ていきましょう。
皆さんは「絵師」という言葉を聞いたことがありますか。
江戸時代には時の権力者や寺社が出資してパトロンとなり、絵師は寺に住み込み、修行をしながら障壁画を描く「御用絵師」の存在がありました。私も一時期は退蔵院に住みこみ、作務や坐禅を行い、ここ壽聖院をアトリエとして襖絵を描いていました。
最初にご案内するのは、2013年に描いた方丈襖絵「稲穂に雀図」です。実はこの方丈の襖絵を描くにあたって、先代のご住職から2つのご要望がありました。
「ここは法要などが行われる、祈りの場なので祈りに専心できる絵であってほしい」。もう1つは、「目の前に広がる庭との一体感を大切にして欲しい」ということ。「庭を見たときの気持ち、そして振り返って方丈を見渡したときの気持ちが、同じような心の静けさであってほしい」と。
ご住職のご要望を伺い、襖絵を考えるにあたって、私はお参りに来られる方の気持ちを想像しました。
きっと多くの方が自分の大切な人を想い「どうか豊かであってほしい」「私たちを見守っていてください」と祈るのではないだろうか。だからこそ、その気持ちに寄り添うように、稲穂と雀をモチーフにし、豊かで温かい景色を描きたいと感じたのです。
方丈の奥・東側では、雀がお庭から稲穂畑に遊びにやってくるシーンから、方丈の手前・西側にかけて、次第に空へ飛び立つシーンへと、うつり変わります。ふっくらとした雀たちの表情も、ぜひ近くで見て、楽しんでいただけたらうれしいです。