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串本応挙蘆雪館

無量寺のふすま絵の虎の巻

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無量寺のふすま絵の虎の巻

「タネも仕掛けもあるんです」

完成した絵を見にきた観客たちを前に、そう、高らかに宣言する蘆雪の姿が見えた気がした。実際にそのような言葉を使ったわけではないにしても、自身の絵のたくらみにどれだけ気づくことができるのか。ほくそ笑みながら観客を見つめていたのではないか。

これはぼくの感想に過ぎないが、あなたはどう感じるだろう?

蘆雪といえば「虎の絵」。愛嬌のある表情が見る人を引きつけてやまないが、あの絵は無量寺の本堂を訪れた蘆雪が実際にこの場で描いたもの。そこには、この場所を活かしたアイデアや、この部屋にあるべき理由が詰まっている。言い換えれば、本やネットの写真で眺めていてはわからない、この場所で見るべき理由があるのである。

もちろん、蘆雪は絵の解説書を残したわけではない。だから、すべての言説はのちの人の想像に過ぎない。あなたも蘆雪の筆を追いかけながら妄想を走らせてほしい。

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無量寺のふすま絵の虎の巻

失われてはいけないアーカイブ


過去の記録があるわけでもないのに統一した見解がある。

たとえば、「愚海と応挙は昔から仲がよかった」という説。これにも証拠となる資料はない。ゆえに、想像を思い描く余地がある。たとえば、

「私は、愚海と仲がよかったのは芦雪だと思います。愚海も芦雪も同じ人に禅の手ほどきを受けているのですが、これが妙心寺の斯経慧梁(しきょうえりょう)という人。出家と在家の違いはあれど、愚海と芦雪は兄弟弟子なんですね。だからこそ、芦雪は無量寺にいちばん長く滞在したし、これほど力を入れて絵を描いた。愚海も芦雪が来たときに『思う存分、好きに描いてくれ』と一任したのではないでしょうか。愚海は芦雪の絵の力量も禅的な力量もよく知っていた。それくらい密接な関係だったと思うんです」

そう、話してくれたのは、無量寺の二十世住職だ。このガイドにおける襖絵の解説も住職に聞かせてもらったお話を中心にまとめた。これは貴重なアーカイブとなるかもしれない。

なぜか。

住職は2019年の3月を最後に無量寺を離れてしまうからだ。


すでに先代住職となられたこの方は、15年ものあいだ、この場所でお務めを続けてこられた。2009年に本堂のあるべき空間に芦雪の襖絵を蘇らせたのもこの方であるが、それ以前から毎日、住職として祈りを捧げてこられた。そして、ときに本堂を訪れる人たちに絵の解説も続けてこられた。その言葉は、ぼくたちのような旅人はもちろん、美術専門家とも違う視点を与えてくれる。

しかし、そのお話はもう聞くことができない。

だからこそ、串本にまで訪れたあなたにこのガイドを聞いてほしい。そして、想像をふくらませてほしい。そう願っている。


ON THE TRIP. ぼくたちの旅は続く。

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