本日は、「せとうち星山 寒霞渓スピリチュアルナイトツアー」にご参加いただきありがとうございます。このガイドはナイトツアーのナビゲート役として、皆さまと一緒に普段では体験できない未知なる世界への旅をご案内させていただきます。
バスに乗って寒霞渓のふもと、紅雲亭駅に向かうまでに小豆島とその物語について簡単にご紹介しましょう。
小豆島は瀬戸内海に浮かぶ小さな島、といっても、瀬戸内海では淡路島に次いで2番目に大きな島です。人口は2万5000人ほどで、船でしか渡れない離島としては日本で最も多くの人が暮らしていて、一日に発着するフェリーの本数も日本有数です。
そんな小豆島の歴史は古代までさかのぼります。日本をつくったとされる、イザナギとイザナミの国生みの物語では隣の島、淡路島からはじまり、四国、隠岐、九州と続き、10番目に生まれた島が小豆島とされています。
その昔は「あずきしま」と呼ばれ、応神天皇が訪れたという伝説が残されています。それは、こんな物語。
応神天皇が高台に登り、瀬戸内海の島々と沈んでいく夕日を眺めていたとき、せっかくの美しい光景にもかかわらず、隣にいたお妃様が浮かない顔をしていました。その理由を聞いてみると、実はお妃様の故郷はその夕日が沈むところにある里で、故郷に残してきた父や母が恋しくなったというのです。その話を聞いた応神天皇は、すぐさま舟を手配してお妃様を里帰りさせてあげることにしました。そのとき、次のような歌を詠みました。
「淡路島 いや二並び 小豆島 いやふた並び よろしき嶋々 誰がた去れ 放ちし 吉備ふる妹を 相見つるもの」
淡路島と小豆島のふたつの島はいつも仲良く向かいあっている。それなのに誰が片一方を引き離したのだろう。そうでなければ、私は故郷に帰る妻と向かいあっていられたものを。
そうして、お妃様が乗った舟が遠く見えなくなるまで見送った応神天皇は、やがて都に帰ります。しかし、お妃様のいない日々が寂しくなったのか、半年を待たずして、お妃様がいる里に向けて出発します。その流れで、小豆島に訪れることになるのです。つまり、応神天皇のお妃様を想う気持ちが小豆島に上陸する足がかりとなったと言えるのかもしれません。
応神天皇はまず、このバスの出発地点である土庄港の近くにある「伊喜末」に上陸をしたと言われています。応神天皇が息をすえて休息したことから「いきすえ」と呼ばれるようになったという説もあります。それから、このバスが走っている島の南側をめぐり、やがて寒霞渓の山にも登ります。
まだ寒霞渓という名前がなかった時代の話です。そのとき、応神天皇は切り立つ岩肌をのぼり、山頂で、夜空を見上げ、国の平和や繁栄を祈ったとされることから、天皇が願いを掛けた山「カミカケ」と呼ばれるようになったのです。カミカケと寒霞渓、みなさんも舌の上で2つの言葉を転がしてみてください。伝説と今がひとつに重なっていくような響きを感じるのではないでしょうか。
応神天皇には別名があります。日本人のほとんどが聞いたことがある名前です。それは「八幡さま」です。日本全国で2万社を超えるほど広く親しまれている八幡神社ですが、そこに祀られている神様こそが応神天皇であり、ここ小豆島にはとりわけたくさんの八幡神社があります。それも、このバスが走っている南側にたくさんあることもまた、この物語が残されているから。伝説と今はつながっているのです。
ところで、このバスが向かっている寒霞渓、そのロープウェイは2つの山の狭間にある渓谷を走っています。その2つの山のひとつが瀬戸内海の最高峰、星ヶ城山です。星の城と名前が付くほどの場所には、星にまつわる逸話が多く残されています。星ヶ城山の山頂には、東西に見晴らし台がありますが、その見晴らし台から見える空には、北天の空が広がります。
その中でも、一番の輝きを見せる星が、北極星です。北極星は、季節にかかわらずいつでも同じように見える星です。北極星は真北に位置し、星々の回転の中心になっていることから星の王様と思われていたそうです。ちなみに、応神天皇もまた母親のお腹の中にいたときから「王様」になる宿命であったことから「王神」となったと言われています。それはさておき、この世界の中心であるとされた北極星とその一番近くで周る星、北斗七星は、神と人に例えられ、時として信仰の対象となることもありました。
星ヶ城山の西側には、星の神様が祀られた神社があり、東側には石積みの塔が、現在でも残っていることから、神聖な場所であったことがわかります。その昔、修験道である山伏たちが寒霞渓を登り、空に一番近い場所から、北極星と北斗七星に向かって祈りを捧げ、願を掛けていたのです。
神に懸かる山の由縁となった応神天皇は、後世を通じて、神格化され、八幡の神となりました。そのことは先にお話しましたが、小豆島に八幡の神を祀る神社はいくつあるかご存知でしょうか。正解は7つです。その7つの神社を線で結ぶと、なんと北斗七星になるのです。
とあるお寺や神社では、北天の空、北極星と北斗七星に向かい祈りを捧げることを「星まつり」という祭事として現代まで引き継がれています。小豆島は、古来より星と係わりがある場所であり、なかでも、寒霞渓一帯は霊地信仰の地として、深く、星と縁がある場所なのです。
北天の空に向かい北極星と北斗七星に、祈りを捧げる。今日は、この由緒ある場所から、北天に一番近い場所、寒霞渓で願いを叶える「星まつり」となることでしょう。
果たして今日は、どんな夜空が待っているでしょうか。寒霞渓に到着するまで、今しばらくお待ちください。