この展望台に立ったとき、夜景という星々のきらめきより先に感じてほしいことがあります。それは風です。きょうの風はどうでしょう。みなさんの肌は風を感じているでしょうか。

瀬戸内の海から来る風は、寒霞渓にそびえ立つ星ヶ城山にぶつかり、まとまった風となって眼下の世界に吹き下ろします。そこには小豆島の町並みが広がっています。寒霞渓から吹き下ろした風は、天日干しした素麺を乾かし、醤油の菌を発酵させるのにも役立っています。いま、みなさんが感じている風は小豆島の食文化にもつながっているのです。

さて、この場所から見える小豆島の夜景は「鹿の形」に見えると言われています。みなさんから見て、左上が鹿の頭で、そこから右下の寒霞渓に近づくにつれてお尻や後ろ足が伸びているように見えます。

どうでしょう。鹿の形に見えてきたでしょうか。その鹿の頭から首筋にかけてひときわ輝いて見える光の筋がわかるでしょうか。そこは醤油の町=ひしおの郷のメインストリートであり、醤油蔵がたくさん並んでいます。その光は、400年以上前に始まり、職人たちが受け継いできた光。昔ながらの深い味わいは、日本を代表する伝統の味となりました。車でドライブするだけでも醤油のにおいが香り立つ町並み。その根本には、この風が欠かせないものでもあるのです。

次に、目を閉じて大地に深くダイビングしてみましょう。小豆島の地層は大きく分けて三層の構造になっています。いちばん上の層は星ヶ城山を覆っている固い安山岩。そして、2つ目の層が寒霞渓の多くをしめている火山角礫岩。米作りが盛んな中山の千枚田と同じ地層です。そして、いちばん下にあるのが花崗岩。水はけがよく、この地層がベースにあることからオリーブが小豆島に根付くことができました。

再び目を開けてみましょう。鹿のお尻の下、寒霞渓からいちばん近くに見える横一線の強い光は内海ダムの光です。

四国のダムで堤防の上部となる堤頂部がいちばん長いとされ、その部分がライトアップされているのですが、このダムが貯めている水が寒霞渓湖。その名の通り、寒霞渓から流れ出た岩清水を堰き止めています。つまり、寒霞渓にそびえ立つ星ヶ城山、瀬戸内海の最高峰のその高さがあるがゆえに水が貯まり、その水が川となり生活用水として、また田畑を耕したりする農業用水として使われています。ダムがない時代から、麓の里の人たちは山と共に生き、この山はまさに命の水が湧き出す源であったのです。

それでは、引き続き、寒霞渓から見える夜景をお楽しみください。光り輝く一粒一粒の灯りは人の営みという星あかり。ときに海を走る船の漁火が願いをかける流れ星のように見えるかもしれません。

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