小浜には「雲浜」という言葉が伝わっています。それは小浜城が建つより昔、漁師が暮らす小さな浜であったころ。白い砂浜に干した網が、遠くから見ると、蜘蛛が網を張ったように見えたことから、蜘蛛の浜→雲の浜→雲浜(うんぴん)と呼ばれるようになったと言われています。しかし、雲浜という言葉にはそれ以上の物語が宿っているように思うのです。
今のあなたは「雲浜」と聞いてどんな風景が思い浮かぶでしょうか。この場所から見える海こそが雲浜です。江戸時代に描かれた「雲浜八景」という絵巻物にもまたこの場所から見た風景が描かれています。漁師町であった西津は、世界に通ずる港となり、やがて北前船の寄港地となりました。普通の人であれば生涯目にすることもないような不思議なものが海の向こう側から次々とやってくるのです。当時の人たちは目の前の海をどんな目で眺めていたのでしょうか。きっと、西津の漁師たちは普通の人とは異なるビジョンを持っていた。だからこそ、北前船で財を成す古河屋が生まれ、若狭塗が生まれ、その模様に雲浜が描かれたのかもしれません。
雲浜という言葉には、さまざまな物語が時空を超えて浮かび上がってくるような響きがあります。現在の風景とは異なる光景を、あなたの目は見出すことができるのではないでしょうか。
声:八百比丘尼
ON THE TRIP 編集部
志賀章人・本間寛・奈良音花
※このガイドは、取材や資料に基づいて作っていますが、ぼくたち ON THE TRIP の解釈も含まれています。専門家により諸説が異なる場合がありますが、真実は自らの旅で発見してください。