むかしむかし、海幸彦と山幸彦という兄弟がいました。名前の通り、海幸彦は海の漁が得意で、山幸彦は山の猟が得意だったのですが、あるとき、兄弟は道具を交換して、弟の山幸彦が海に魚釣りにでかけました。

しかし、釣り針を海に落としてしまいます。その針を探し求めて海底の竜宮城に辿り着いた山幸彦は、豊玉姫というお姫様と出会い、結婚することになります。しばらくは海で暮らしていた山幸彦ですが、やがて地上に戻ることを決意して、釣り針を取り戻し、霊力のある玉を貰って地上に帰りつきます。

若狭姫神社は、この神話に出てくる豊玉姫をお祀りしている神社です。海のお姫様であることから、海上安全などが祈られ、船の形をした立派な「船玉」が奉納されています。若狭姫神社はかつて山幸彦をお祀りしている若狭彦神社のそばにあり、夫婦のように隣り合わせていたのですが、のちに移動をして、この場所に落ち着きました。

この場所には、神話という物語を紐解く鍵になる宝物が残されています。それは「遠敷神社」と書かれた扁額です。それは、この場所に遠敷神社があり、遠敷明神を祀っていることを示しています。というのも、古代、この地域は若狭国の中でも「遠敷」と呼ばれていました。土地の名前を冠する遠敷明神は、この地に古くから根付いていた土地の神様なのです。

ところが、遠敷明神が祀られていたこの場所に、外の世界から何者かがやってきます。そして、結婚、もとい融合することになりました。それは一体、何者だったのか。外の世界からきた存在、それこそが都から来た山幸彦だった。そう考えてみると、どうでしょう。

ここで注意したいのは、物語の語り手です。物語とは時の政権がつくるもの。政権が都にあるとすれば、若狭は付き従う側です。だから、都にとって海の国である若狭こそが豊玉姫。若狭姫からすれば、外の世界から山幸彦がやってきたわけです。そして、山幸彦と豊玉姫が結婚したように、この物語によって、都と若狭をひとつに結びつけようとした。そんな歴史が隠されているのかもしれません。

山幸彦とは若狭彦。若狭彦神社にはもうひとつの神話が残されています。続きは、若狭彦神社でご案内しましょう。

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