海面の高さは現在と比べてプラス50mからマイナス150mと、長い歴史の中で200mも変化していることを知った上で隠岐を旅してみると、今まで気づかなかったことが見えてきます。

【ナウマンゾウの牙と歯】
たとえば、展示されているナウマンゾウの牙が隠岐で見つかったことから、約2万年前にナウマンゾウが隠岐にいたことがわかります。では、どうやって渡ってきたのでしょう。それは、約2万年前の氷河期は海面が今より130mほど低かったからです。実は、隠岐と島根半島の間の水深は70mほどしかありません。つまり、氷河期のころは日本列島と隠岐は陸続きであり、ナウマンゾウは歩いて渡ってきたことがわかります。このように地球が寒くなったり、暖かくなったりを繰り返していることは、これまで何度も陸続きになったり離島になったりを繰り返していることを表していて、こうした環境が隠岐の不思議な植物分布を生み出したのです。

【不思議な植物分布】
どこが不思議なのかというと、隠岐は固有種が33種類しかありません。同じ離島である屋久島は約130種類、小笠原は660種類も固有種があることから、隠岐はこれまで見過ごされてきたのですが、近年は隠岐の植物分布に注目が集まっています。6月の隠岐は海岸にハマナスが咲き、後ろを振り向くとナゴランが咲いています。ハマナスは北海道で、ナゴランは沖縄で見られる植物ですから北国の植物と南国の植物が共存しているのです。その他にも標高1000m~1500mに分布する高山植物が海岸に咲いていたり、大陸側で見られる植物も共存しています。

【杉の逃避地となって】
隠岐の不思議な植物分布はなぜ生まれたのでしょうか。それは意外にも杉の研究によって明らかにされました。杉の逃避地のパネルに移動してください。杉は日本の固有種で、北海道をのぞいた本州・四国・九州に幅広く分布しており、日本海側の杉、太平洋側の杉、九州の杉はそれぞれ性質が違っています。これらの日本の杉は2万年前の氷河期に気温の低下によって絶滅の危機に陥るのですが、日本海側の杉が生き残ったのが隠岐、太平洋側の杉が生き残ったのが伊豆半島、九州の杉が生き残ったのが屋久島でした。どのようにして日本海側の杉は隠岐で生き残ることができたのでしょうか。2万年前、海面の低下によって島根半島と陸続きとなった隠岐に杉が移動して生き残ったと考えられています。杉が移動したということは、他の植物も移動したと考えることができます。氷河期の時代、この小さな島に様々な植物が閉じ込められたため、現在のような多種多様な植物が共存する姿が見られるようになったのです。

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