この場所は、ニッポニア大洲の受付があるフロント棟です。ニッポニア大洲は名家の旧邸宅をホテルとして再活用しており、このフロント棟も明治時代に木蝋で財を成した村上長次郎さん宅を改築したものです。木蝋とはハゼの実からつくるジャパニーズワックスのこと。和蝋燭やお相撲さんの鬢付け油をはじめ、フランスでパリジェンヌの唇を彩るリップの原料としても重宝されました。

通りを挟んですぐ近くの、負けず劣らず立派なお宅は、製糸業で栄えた今岡家の旧邸宅。製糸業とはお蚕さんの繭から生糸をつくる産業のことです。大洲が製糸業で成功したのは「お蚕さんの餌に必要な桑の木に適した土地だったから」と言われていますが、実際にはこんな理由もありました。「たびたび起こる肱川の氾濫によって質の良い土が運ばれてくるけれど、根の弱い穀物は流されてしまいどうも育てにくい。でも、水害に強い桑の木なら適しているのでは?」と、これが大成功。当時の大洲は銀行で繭を担保にお金を借りられるほど、製糸業が発展したそうです。

村上邸の中庭には、あちこちに石臼が転がっています。きっとハゼの実をすり潰すのに使用したものでしょう。それによく見ると「今岡」の文字が記された壺も。お隣さんのよしみで譲られたものなのか、はたまた借りたまま返すのを忘れたのか。当時の2大名家の交流を想像してしまいます。

一方、今岡邸の中庭には立派な梅の木があります。建物はどの部屋からもこの梅が見えるように建てられており、とても大切にされていたことがうかがえます。実は、今岡さんのフルネームは「今岡梅治郎」。昭和天皇即位式の際に生糸を献上したお礼に「梅治郎」の名にちなんで贈られたものだそう。今でも花を咲かせ実をつけ、その梅シロップは、おもてなしにも利用されています。

さてこの梅の木、今岡邸に宿泊するお客さんならすぐにわかる場所にありますが、そうではない方はスタッフに聞いてこっそり場所を教えてもらいましょう。


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