堺幕府があったとされる場所に、現在は観光スポット「さかい利晶の杜」がある。ここでは、千利休と茶の湯から歴史文化を解き明かす「千利休茶の湯館」があり、利休の足跡をたどることができる。
ここで、利休にまつわるひとつのエピソードを紹介しよう。利休には同じ師匠を持つ友人・丿貫がいた。ある日、茶会に誘われ、丿貫の元を訪ねると、地面を見ると落とし穴を掘ったような跡がある。しかも、何やら風呂の方からは煙が立ち昇っている。
丿貫の意図に気づいた利休だったが、知らぬ顔をして落とし穴に落ちた。当の丿貫は、誰がこんなことをと言わんばかりの顔で「風呂を用意していますよ」と言うのであった。
利休は、風呂に入って汗を流した後のお茶が一番美味いという、丿貫の道理に付き合うことにしたのだ。まるでキツネとタヌキの化かし合いのようにコミカルで、互いの知恵を競い合う高度な知的遊戯が、堺の茶人たちが育んだ茶の湯なのである。